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『シト新生 - Evangelion: Death and Rebirth』新世紀エヴァンゲリオン劇場版のストーリーとセリフ書き起こし

新世紀エヴァンゲリオン劇場版『シト新生 - Evangelion: Death and Rebirth』タイトル
©カラー/1995-2014 GAINAX

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 ――これが、「EVANGELION:DEATH」本来の姿です。

 2000年 南極大陸

 葛城調査隊は、ある調査のために南極で実験を行っていた。その施設において、突如爆発事故が発生する。周囲は崩壊し、重傷を負った葛城博士は、娘を避難用のカプセルに入れて脱出させる。後に「セカンドインパクト」と呼ばれるこの事象で、唯一の生存者となった葛城ミサトは、爆発の起こった現場で光の巨人が四枚の羽を広げる姿を目撃していた。


 その15年後――。

 彼女は、男に抱かれていた。

「リツコは今頃、いやらしい女だって軽蔑してるわね。きっと」

 ミサトはベッドの上で加持リョウジの手を握っていた。

 加持は、自分の胸に重なるミサトに向かって「情欲に溺れている方が人間としてリアルだ。少しは欺けるさ」と言った。

「うちの諜報部を? それとも碇司令やリツコ? ……それともあたし?」

 ミサトは、顔を乗せた加持の胸に問いかける。

「いや、自分を」

 加持は天井に埋め込まれた電球を意味もなく眺めていた。

「他人を、でしょ? あなた、人の事には興味ないもの。そのくせ寂しがる」

 ミサトは目線を動かさないまま、ぽっかりと心の中に空いた穴を見つめていた。

「ほんとお父さんと同じね」


 その9ヶ月前――。

 彼は、星を見ていた。

「あ~あぁ。明日はもう日本か。お昼にはミサトが迎えに来るって言ってたし。ちぇ、加持さんともしばらくお別れね。つまんないの」

〈セカンドチルドレン〉惣流・アスカ・ラングレーは、エヴァ弐号機とともにドイツから日本へ向かう海路の途中にあった。

 加持は、輸送空母の甲板に寝転んで空を眺めながら「日本に着けば新しいボーイフレンドも一杯できるさ。サードチルドレンは男の子だって話だぞ」と言った。

「バカなガキに興味はないわ。私が好きなのは加持さんだけよ」

 アスカは、この男の中に自分の居場所を作ろうと、懸命に振舞う。


 その7年前――。

 彼女は、部屋を駆け抜けた。

「ママー! ママ! 私、選ばれたの。人類を守るエリートパイロットなのよ。世界一なのよ」

 アスカは、もう一度取り戻したかった。自分のことを受け入れ、認めてくれる世界を。

「誰にも秘密なの。でも、ママにだけ教えるわね」

 アスカは、自分の力でそれを手に入れようとした。

「色んな人が親切にしてくれるわ。だから寂しくなんかないの」

 それが彼女の生きる理由だった。

「だからパパがいなくても大丈夫。寂しくなんかないわ」

 存在理由。人から認められること。

「だから見て。私を見て」

 自分を認めてくれる人。

「ねぇ、ママ」

 アスカはいくつものドアを開けた。しかし、その先で見たのは、自分の母親が首を吊ってぶら下がる光景だった。

 

「聞こえる? アスカ」

 特務機関NERVネルフの技術開発部・エヴァンゲリオン開発責任者の赤木リツコは、試験中のパイロットに声を掛ける。

「シンクロ率8も低下よ。いつも通り余計なことは考えずに」

 その乾いた声をコックピットで聞いていたアスカは、表情を強張らせて「やってるわよ!」と叫んだ。

「最近のアスカのシンクロ率、下がる一方ですね」

 オペレーターの伊吹マヤが、懸念の表情を見せる。

 リツコは、モニターの数値を眺めながら「困ったわね。この余裕のない時に。やはりレイの零号機を優先させましょう」と言った。


 その数年前――。

「所長、おはようございます。お子さん連れですか?」

 人工進化研究所の職員・赤木ナオコは、ゲンドウの隣に佇む青い髪の少女を、その時初めて見た。

「あら? でも確か男の子……」

 少女の肩に手を置いたゲンドウは「シンジではありません。知人の子を預かることになりましてね」と答えてから、「綾波レイと言います」と紹介した。

「レイちゃん。こんにちは」

 母・ナオコの横に付き添っていたリツコが腰をかがめて声を掛けた。


 その5年後――。

 彼女は、彼に再会した。

「だめか……」

 第3新東京市に上京してきた〈サードチルドレン〉碇シンジは、公衆電話に受話器を置いて腕時計を見た。

「待ち合わせは無理か。しょうがない、シェルターへ行こう」そう言ったシンジは、ふと人の気配を感じて向かいの道路へ目を向ける。

 そこには、制服を着た青い髪の少女が立っていた。電線に止まっていた鳥の群れが一斉に羽ばたく。その音に気をとられたシンジは、もう一度少女のいた方へ目を向ける。すると、さっき人の気配を感じた場所には、もう誰もいなかった。

 その時、不思議な感覚を確かめる間もなく、激しい地響きがシンジを襲う。軋むシャッター。空を切って揺れる電線。思わず耳を塞いで立ち尽くすシンジは、何かが近づいてくる音に気がついて振り向いた。

 山陰から国連軍の戦闘機が次々と後退していく様子が見える。それに続いて忍び寄る足音。戦闘機が成すすべもないまま足音の主に道を譲る。すると、山のふもとに立つビルよりも背の高い、二足歩行の巨人が現れた。

 その異質な存在に、シンジは言葉を失う。

 巨人が放った光線が街を壊してゆく。その破壊力は、第3新東京市の地下に広がるジオフロントの装甲を貫くほどだった。

 

 崩壊したビルが降り注ぐジオフロント。その落下物は、内部にあるNERVネルフ本部を襲った。巨人の攻撃で揺れるNERVネルフ本部。その衝撃で移送ベッドから転がり落ちる綾波レイ。レイは巨人を殲滅するためにエヴァンゲリオンへ搭乗して戦うことを命じられていた。しかし、先のエヴァ零号機の起動実験中に起きた事故によって重傷を負っていたレイは、ほとんど動けない状態だった。

 床に横たわって苦しむレイに駆け寄るシンジ。自分がエヴァに乗らなければ彼女が乗ることになる。彼女を抱いた手が赤い血で染まっている。シンジは、葛藤から自分を奮い立たせるために、何度も心の中で繰り返す。

「逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ」


 その数ヵ月後――。

 彼は、決断を迫られていた。

「ありがとう。シンジ君」

 エヴァ初号機の巨大な手の中にあった〈フィフスチルドレン〉渚カヲルは落ち着いていた。

「カヲル君……どうして」

 シンジは目の前にいる友人が使徒であることを受け入れたくはなかった。

「僕が生き続けることが僕の運命だからだよ。結果、人が滅びてもね」

 カヲルはシンジの問いには答えなかった。その代わりに、自分が持つ「答え」をシンジに伝えようとした。

「だが、このまま死ぬこともできる。生と死は等価値なんだ、僕にとってはね。自らの死、それが唯一の絶対的自由なんだよ」

 この時、シンジには突然の出来事を理解する余裕が無かった。

「なにを……カヲル君……君が何を言っているのか分かんないよ! カヲル君!」

「遺言だよ」

 カヲルは目的のために話を進める。

「さあ、僕を消してくれ。そうしなければ君らが消えることになる。滅びの時を免れ、未来を与えられる生命体は一つしか選ばれないんだ」


 その18月前――。

 長野県 第2新東京市(旧松本市)第三中学校講堂内。

 弦楽四重奏 練習開始二十二分前。

 一人講堂に入ったシンジはパイプ椅子に腰を下ろすと、持参した楽器をケースから取り出して構えた。

 チェロ――第四絃。

 調絃。

 シンジは体重を椅子の背もたれに預けて、深呼吸をする。

 ――Johann Sebastian BACH

 ――Suiten fur Violoncello solo Nr.1

 ――G-bur, BWV.1007

 ――1.Vorspier

 講堂に暖かい音色が響き渡り、空間を満たして行く。

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