第1日。
損傷の激しい第1発令所は、使い物にならなくなっていた。リツコは、MAGIシステムが無くとも、予備の第2発令所を使用するしかないと判断する。それより、使えるかどうか分からないのは、エヴァ初号機の方であった。
S2機関が完全に停止した状態の初号機は、拘束された状態で沈黙していた。エネルギー反応がないとは言え、過去の暴走が繰り返されることを恐れるミサト。目視できる状況だけでは迂闊に触れないと慎重になるミサトに、オペレーターの日向マコトは冗談を言って場を和ませようとするが、ミサトの表情は硬いままだった。
今回の被害に関して議論するゼーレの面々。ゲンドウの責任を追及するため、監視の強化を図るキール。
「この展開は予想外ですな」
とぼけた質問で様子を伺う加持。加持がゼーレにどう言い訳するつもりか問うと、冬月は不慮の事故として報告すると言う。ゲンドウは、委員会の別命あるまでは初号機を凍結することを決定する。しかし、シンジは初号機に取り込まれたままだった。
発令所では、反応しない初号機にあらゆる手を尽くしていた。ようやくエントリープラグ内の映像がつながり、主モニターに映し出される。しかし、コックピットには抜け殻になったプラグスーツが浮かぶだけでシンジの姿はない。
「シンジ君は一体どうなったのよ!」
それを見たミサトがリツコに詰め寄る。エヴァ初号機に取り込まれてしまったとリツコは答える。エヴァの存在に益々不信を抱くミサトはリツコに疑問をぶつける。しかし、リツコはエヴァのことを人の作り出した、人に近い形をした物体としか言いようがないと表現する。南極で拾ったものをコピーしたエヴァに対して、人の作り出したものだというリツコに「オリジナルが聞いてあきれるわ!」とミサトはぶつける。しかし、ただのコピーではない、人の意思が込められていると言うリツコ。
「これも誰かの意志だって言うの?」とミサトが噛み付く。
「あるいはエヴァの」冷淡に答えるリツコに激昂したミサトは平手をぶつけた。
「あんたが作ったんでしょう? 最後まで責任取りなさいよ!」
頬を腫らしたリツコに向かって、ミサトは感情をあらわにする。
第2日。
病院のベッドで目を覚ました綾波レイは「まだ生きてる……」とつぶやく。ミサトの家には、何もできなかった自分とシンジに負けた事実に悔しがるアスカの姿があった。ミサトから「レイが生きている」という報告を受けたアスカは、八つ当たりして受話器を叩きつける。
第3日。
リツコたちはシンジの〝サルベージ〟を計画していた。現状、プラグの中のL.C.L.成分は、化学変化を起こして原始地球の海水に酷似した「生命のスープ」とも言うべきものになっているという。リツコとマヤは、量子状態になってしまったシンジの肉体を再構成して精神を定着させる作業に入る、とミサトを説得する。
第4日。
シンジの自我はプラグ内を漂う。シンジは、自分の記憶や感情が入り混じったものと向き合う。自分は父に捨てられたのだというシンジ。それに対して自分から逃げ出したくせにというレイの姿。しかし、シンジは外側に敵を作ろうとしてもがく。エヴァに乗れというゲンドウ。他の人間には無理だからだと言うゲンドウ。自分には無理だと拒絶するシンジ。しかし、シンジは気づく。エヴァのことを知っていた。自分は父と母から逃げ出したことを。
WEAVING A STORY 2:oral stage
第30日。
たったの一ヶ月でサルベージ計画の要綱を用意したリツコを尊敬するマヤに、リツコは十年前の出来事を話す。原案は既にあった。自分の母が関わった事案。しかし、そのときの結果は失敗だった。
第31日。
プラグ内に漂うシンジの自我は、人の気持ちの原点のようなものに気づき始める。ある日の光景。エレベーターの中でレイに問われる。
「サミシイって何?」「シアワセって何?」
これまでは分からなかった。でも今は分かる気がする、と答えるシンジ。なぜ他人が自分に優しくしてくれるのか。自分がエヴァのパイロットだから。みんなの言う通りにエヴァに乗って、みんなの言う通りに勝たなきゃいけない。そうじゃないと、誰も……。
自問自答するシンジ。みんなの声がする。みんなが褒めてくれる。こんなに頑張っている自分。一生懸命の自分。みんなに褒めてもらいたい。大事にされたい。優しくして欲しい。
「ねえシンジ君、私と一つになりたい? 心も体も一つになりたい? それは、とてもとても気持ちいいことなのよ」ミサトの声がする。
「ほらぁバカシンジ。私と一つになりたくない? 心も体も一つになりたくない? それはとてもとても気持ちのいいことなんだからさ」アスカの声がする。
「碇君、私と一つになりたい? それは、とてもとても気持ちいいことなのよ。碇君」レイの声がする。
――安心して、心を解き放って。
サルベージ作業を開始するリツコとオペレーター。ミサトはその光景を不安そうに見つめる。信号送信を開始する。特に異常なく順調に推移する。しかし、エラーが発生すると作業は中止に追い込まれる。シンジの自我が拒絶しているのか。
「帰りたくないの? シンジ君」と言って戸惑うリツコ。シンジは自我の海で揺れる。自分の気持ちが分からない。ミサトに問われる。アスカに問われる。レイに問われる。そして母の声が聞こえる。
――何を願うの?
必死の作業も効果はなく、事態は最悪の方へと転がってゆく。
「L.C.L.の自己フォーメーションが分解していきます」
オペレーター青葉シゲルの言葉と同時にプラグ内の圧力が上昇する。リツコが電源を落とすように指示を出した瞬間、強制的にエントリープラグのハッチが開き、褐色の液体が床へと流れ落ちる。
「僕はエヴァにはもう乗らないって決めたんです」
そう答えるシンジに対して、エヴァに乗ったという揺るぎない事実を突きつけるミサト。エヴァに乗ったからこそ、今ここにいること。エヴァに乗ったからこそ、今の自分になれたこと。過去は変えられないし否定もできないのだとミサトは言う。これから自分をどうするのか、自分で決めなさいというミサトの声に、シンジは決意する。
「人ひとり助けられなくて、何が科学よ」
シンジの着ていたプラグスーツを抱きしめながら涙を流すミサト。シンジを返してくれと行き場のない怒りをぶつける。
記憶の海にまどろむシンジ。父・ゲンドウと母・ユイの声が聞こえる。セカンドインパクトの後に生きていかなければならない子供を憂うゲンドウ。生きているだけで、幸せになるチャンスはどこにでもあると希望を抱くユイ。男だったら「シンジ」、女だったら「レイ」と名づけるとゲンドウが言う。シンジ……レイ……。ユイはその言葉を慈しむ。
シンジの名を呼んで涙を流すミサトは何かが落ちる音を聞いて顔を上げた。ミサトは息を飲む。そこには実体化したシンジの身体が横たわっていた。
第33日。
「神様の力まで道具として使っちゃうのね、人間ってやつは」
リツコを車で送る途中、ミサトは言う。委員会では凍結案も出ているそうだとリツコは答える。「人造人間エヴァンゲリオン」人が作ったにしては未知の部分が多すぎると言うミサトだが、ひとまずシンジが助かったことで、とやかく言わないようにする。そんなミサトに対して、シンジが助かったのは、多分あなたの力だと見解を示すリツコは、久しぶりに飲まないかとミサトを誘う。しかし、ミサトははぐらかして車を別の相手のいる方へ向ける。
「リツコは今ごろ、いやらしい女だって軽蔑してるわね」
ベッドの上で加持と重なり合うミサトは言った。お互いの過去や内面を重ねながら秘密を共有する二人。ミサトは、人類補完計画がどこまで進んでいるのか加持に問いかける。なぜNERVの地下にアダムが保護されているのかも。それが知りたくて俺と会っているのかと言う加持に、「それもあるわ」とミサトは答える。NERVやゲンドウの本当の目的は何なのか、ミサトは自分が求めていることを伝える。しかし、「こっちが知りたいよ」と言ってごまかす加持はミサトの唇を塞いだ。
「やだ! 変なもの入れないでよ! こんな時に」
口の中に異物感を覚えて何かを取り出すミサト。
「プレゼントさ、8年ぶりの」という加持の言葉に、ミサトは何かを見出そうとする。最後かもしれないがな、と言って横になった加持は、天井を見つめた。