部屋に篭もりっきりのミサトは、加持が留守番電話に残した最後のメッセージを繰り返し聞いていた。部屋から出てくる気配のないミサト。それに今日も家に戻る気配のないアスカ。その状況に取り残されたシンジ。
アスカは、ヒカリの家に泊まり込んでゲームばかりしていた。
「ごめんね、私、邪魔かな?」
夜、ベッドに横になったアスカは、隣で寝ているヒカリに謝る。アスカは、使徒に自分が勝てなかったこと、そんな自分に自信が持てなくなったことを吐露する。アスカはよくやったと言って慰めるヒカリの言葉を受けて、アスカは小さくうずくまって悔しさを流した。
ジオフロント内のデスクで、リツコは電話口の祖母から飼っていた猫の行方が分からないと告げられる。ネコにだって寿命はあるわよ、と言ってリツコは祖母を落ち着かせようとした。時間ができたら顔を見せると言って、3年もの間、尋ねていない母の墓の事を付け加える。用件だけ伝えたリツコは、電話を切ってからネコの置物に感慨深い表情で視線を落とす。
ゼーレは、ロンギヌスの槍の件でゲンドウを尋問していた。使徒殲滅を優先させるためには、やむを得なかったとゲンドウが答える。その時、電話の呼び出し音が鳴り、ゲンドウが受話器に耳を預ける。その内容は、使徒が現在接近中であることを伝える冬月からのものであった。その事態を受けたゲンドウは、続きはまた後ほど、とだけ言って席を外す。キールは、ゲンドウの一連の動きから、ゼーレを欺くのではないかと疑う。
使徒出現を受けて慌しさを増す発令所。到着に遅れたミサトは車中から指示を飛ばす。初号機の凍結はまだ解除されていなかった。ミサトの指示を受けて零号機を狙撃へ、弐号機をバックアップのため待機へ回すオペレータ。しかし、ゲンドウが囮くらいにはなると言って、敵前に弐号機を出すように指示する。発進準備の指示を受け、すっかり自信を喪失しているアスカは愚痴をこぼす。彼女は、自分が使徒を倒す意義を完全に見失っていた。混乱する発令所に、遅れてきたミサトが駆け込み状況を確認する。
地上では、物陰から攻撃の機会を伺う零号機が既に待機していた。レイは、二重螺旋の光る飛行物体・第16使徒アルミサエルを目視で確認。発令所では、未だ使徒の全容が掴めないままでいた。周期的にパターン青からオレンジへ変化する光る物体に対して、MAGIシステムは回答不能を提示。しばらく様子を見ることをミサトが決定した直後、使徒は形をひも状に変化させて零号機への攻撃を開始する。
自らを零号機に突き刺し、侵蝕を始める使徒に対して、レイはその細長い体を掴み取ると、至近距離からスナイパーライフルで応戦する。直接攻撃を全く受け付けない様子の使徒は、零号機を追い詰め生体融合を続ける。危険な状態を援護するため、弐号機を地上に発進させるミサト。しかし、シンクロ率が低すぎる状態に陥ったアスカは、弐号機を動かすことができなかった。このままでは一方的にやられてしまう危険性があるため、弐号機は一旦地下へと戻された。
使徒から融合を迫られたレイは、精神世界へと潜ってしまう。そこで自分の中の分身を見つめる。しかし、その実態が使徒ではないのかと感じたレイは融合を拒否する。使徒は、私の心をあなたにも分けてあげると言って侵蝕を続ける。心の痛みを送り込んでくる使徒に対して、その痛みを「寂しい」と感じるレイ。「一人が嫌なんでしょ?」とレイは使徒に尋ねる。「私たちはたくさんいるのに、一人でいるのが嫌なんでしょ?それを、寂しいと言うの」と続けるレイに対して使徒は、それはあなたの心よ、と返す。悲しみに満ちている、あなた自身の心よ、と。
現実に戻ったレイは、自分が初めて涙を流していることに気づいて驚く。
「泣いているのは、私?」
その瞬間、使徒の侵蝕は臨界点を突破し、零号機は瞬く間に形状を変化させていく。それを見たゲンドウは、すぐさま初号機の凍結を解除。出撃を命ずる。
地上に出たシンジは、すぐさま初号機のA・T・フィールドを展開させる。それに反応した使徒は、零号機と融合していない方の先端で、初号機に襲い掛かった。紙一重で避けた初号機は、使徒を両手で掴み取った。使徒は、みるみるうちに接触した部分から初号機へ侵蝕を開始する。その侵蝕は、コックピットのシンジの手にも具現化し始める。初号機はプログ・ナイフを取り出し、使徒の体へ突き立てる。その攻撃に、のた打ち回ってもがき苦しむ使徒。すると使徒は、レイの姿に体を変化させ初号機に近づいて行った。使徒と半融合状態のレイは感じ取る。
「これは、私の心……碇君と一緒になりたい……?」
その気持ちを押さえ込んだレイは、使徒を自分の方へ引きずり戻そうとする。零号機の限界を感じたミサトは、機体を捨てて逃げるよう叫ぶ。
「だめ……」
レイは自分がいなくなったらA・T・フィールドが消えてしまうからと言って、緊急用のハンドルに手を掛ける。使徒を取り込んで大きく膨張したコアが一気に圧縮される。オペレーターのマヤが叫ぶ――。
「コアが潰れます、臨界突破!」
その時、レイは光の中で穏やかな眼差しを向けるゲンドウの姿を見る。零号機は、その幻想を追いかけるようにして立ち上がると、頭上に光の輪を宿し、レイの姿に変容した。光に包まれる零号機。そして、消滅。零号機は、大爆発を引き起こしてあたり一面を赤く染めた。シンジは、その光景をただ唖然と見つめることしか出来なかった。
Rei III
後日、零号機の爆心地では、リツコと調査隊が調査を進めていた。そこで、レイの乗ったエントリープラグの残骸を発見するが、リツコはそれを極秘事項とすることを指示する。
ゲンドウ不在の場で、ゼーレはシナリオの進捗具合を確認していた。死海文書に記載されている使徒は残り一つだと言う。これまでの被害状況を見て、ゲンドウを解任に追い込もうと策略を立てるゼーレの面々。キールは、新たな人柱として事実を知る者が必要だと言う。
シンジは、自分の部屋で空っぽの天井を見上げていた。すると、ミサトが声を掛けて部屋へと入ってきた。シンジは、悲しいのに涙が出ないんだ、とミサトに告げる。私のできることはこれくらいしかない、と言ってミサトはシンジの手を握ろうとする。しかし、シンジはさっと手を引いて身を遠ざけると、ミサトを受け入れようとはしなかった。ミサトは黙って部屋を後にした。ミサトは、シンジは寂しいはずなのに、きっと人と触れ合うのが怖いのだろうと考える。続いてペンペンに声を掛けた自分に、寂しかったのは自分の方なんだと気づく。
NERV地下実験施設。無言で佇むゲンドウ。「レイか……」その横で冬月は、彼女は自分にとって絶望の産物であり、未だお前の希望の憑代でもあると言う。そして、〝彼女〟のことを、忘れることは無理なのだと言う。
机に伏して朝を迎えたミサトに一本の電話が入る。想定外の連絡に目を覚ましたミサトは、急いでシンジを呼んだ。病院に見舞いに向かったシンジは、レイと話して違和感を覚える。
「多分、私は三人目だと思うから……」
自分の部屋へ戻ったレイは、見覚えのない景色の中に眼鏡を見つける。それを握ると、自然と溢れ出してきた涙に驚く。初めて見たはずなのに、初めてじゃないような気がする。何故自分が泣いているのか、レイには分からなかった。
レイが生きていることをゼーレが知ったら厄介なことになると冬月が忠告する。しかしゲンドウは、「別の物」を差し出してあるから問題ないと答える。
その頃、リツコはゼーレの前で尋問を受けていた。事は穏便に進めたいと申し出るキールは、これ以上の陵辱はしたくないと仕掛ける。公衆の面前で裸にされたリツコは、全く動じない態度で振舞った。しかしゼーレは、君をここに差し出したのは、他でもない碇君だよと言って揺さぶりを掛ける。その言葉を聞いて、リツコはゲンドウの真意を探ろうとした。
ミサトは、加持の残した情報を洗って真相に迫ろうとしていた。かつて受け取った「プレゼント」を見て、後ろ向きになっていた自分を振り払う。
「あなたの心、受け取ったもの」
リツコを解放したゼーレは、シナリオを進めるために彼女を利用し続けることで合意する。その中の一人が、エヴァンゲリオンは、すでに8体まで用意されつつあると言う。後4体か、と何者かがそれに答える。キールは、第3新東京市の消滅は、計画を進める上で良い材料になると言って、残りのエヴァ完成を急がせる。約束の時は、その日となる。
夕方に鳴った電話の向こうに、シンジは意外な人物の声を聞いた。リツコは、監視を解いたから外に出られると言ってシンジをある場所へと呼び出した。
ターミナルドグマの入り口に立ったリツコがカードキーを通すと、扉は開かなかった。代わりにリツコの背中に銃口を突きつけたミサトは、秘密に迫るために自分の要求も突きつける。この先へ進むことを了承したリツコは、もう一人同行することを条件に、シンジを呼び寄せた。それを見て、ミサトは後には引けないことを悟る。
エレベーターで無言のまま深層部へ降りて行く三人。たどり着いた先は「人口進化研究所・3号分室」。
明りを点けると、レイの部屋とそっくりな空間が広がってた。シンジはそのことに驚く。リツコは、ここが彼女の生まれ育ったところだと説明する。ミサトに促されて、リツコは次の場所へ移る。せり出した足場から下を見下ろすと、巨大な空間に無数のエヴァの残骸が転がっていた。数え切れないほどの大きな物体は、人の骨格のような形をしていた。それを、10年前に破棄された失敗作だとリツコは淡々と説明する。更に、シンジに向かって、あなたのお母さんが消えたところでもあると伝える。「覚えてないかもしれないけど、あなたも見ていたはずなのよ。お母さんが消える瞬間を」。それを聞いて息を呑むシンジ。銃を構えるミサト。リツコは、やりきれない笑みを浮かべた。
続いて三人が移動した先は、ダミープラグの大元を開発する場所だった。真実を見せてあげるわ、と言ってリツコはスイッチを押した。目の前に浮かび上がった光景に、ミサトとシンジは言葉を失う。壁一面の水槽に浮かんだいくつもの少女の体。
「綾波……レイ……」
シンジの発した言葉に反応し、同じ動きで三人の方へ目を向けるレイたち。ここはダミーシステムのコアとなるものの生産工場だとリツコは説明する。
人は神様を拾ったので喜んで手に入れようとした。だから罰が当たった。それが15年前――でも今度は、神様を自分たちで復活させようとした。それがアダム。そしてアダムから神様に似せて人間を作った。それがエヴァ。本来魂のないエヴァには、人の魂が宿らせてある。みんなサルベージされたものなの――そう説明するリツコは、先を続ける。結局魂が宿ったのは、レイただ一人であったこと。量産したものは入れ物に過ぎず、魂は存在しないこと。だから壊す。憎いから、と言うと水槽の中身を破壊するスイッチを押した。目の前でバラバラになっていく入れ物のカラダ。レイの笑い声のようなものが辺りに木霊する。
リツコの行動に正気を疑うミサトは叫んだ。
「あんた、何やってるか、分かってんの?」
リツコは、分かっているわと答える。それは、人じゃないモノ、人の形をした物の破壊だった。その〝人形〟にすら自分は負けたのだ、とリツコは続ける。ゲンドウがどんな男なのか分かっていたはずなのに、無力な自分に打ちひしがれるリツコ。
「親子揃って大バカ者だわ!」と言って、リツコは私を殺したいのならそうしなさいとミサトに言う。それこそバカよ、と言ってミサトは銃口を下に向けた。
ミサトは、泣き崩れる友人の姿を見て思い知る。エヴァに取り憑かれた人の悲劇。私も、同じか……。