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『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q / EVANGELION: 3.0 YOU CAN (NOT) REDO.』のストーリーとセリフ書き起こし

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』タイトル
©カラー(khara, Inc.)

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「死海文書の契約改定の時が来ました。これでお別れです」

 七枚のSEELEゼーレのモノリスを前にして、ゲンドウはそれを告げた。冬月がレバーを引いてハンドルを回す度に、モノリスの電源が落ちる。

「あなた方も魂の形を変えたとはいえ、知恵の実を与えられた生命体だ。悠久の時を生きることは出来ても、我々と同じく、訪れる死からは逃れられない。死を背負った群れの進化を進めるために、あなた方は我々に文明を与えてくれた。人類を代表し、感謝します。死をもって、あなたがたの魂をあるべきところへ帰しましょう」

 次々とモノリスの電源が落とされ、最後の一枚となった。ゲンドウは[01]と表示された立方体に向かって、ゆっくりと語った。

「宿願たる人類補完計画と、諦観された神殺しは、私が行います。ご安心を」

 最後に残ったモノリスから、キールが最後の言葉を述べる。

「我らの願いはすでにかなった。良い。全てこれで良い。人類の補完。やすらかな魂の浄化を願う」

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 両手にロンギヌスの槍を持ち、空中に浮かんでいる13号機の四つ目が赤い光を放った。そして、猛獣が咆哮するかのように大きく開口したかと思うと、〝Mark.06〟の機体から派生した使徒をボーリング球ほどの球体に凝集させて、一気に噛み砕いた。使徒はあっけなく血しぶきとなって消えた。〝Mark.06〟を取り込んだ13号機の機体が光を放ち、辺りを照らす。

「こいつ! 疑似シン化形態を超えている!」とアスカが言った。

「覚醒したみたいね……アダムスの生き残りが!」

 マリは光り輝く13号機を見つめて、その行く末を見守ろうとしている。13号機の背中から二本の大きな角が飛び出し、光の輪が放たれた。突然、13号機は天井の穴に向かって急上昇を開始した。そして、セントラルドグマとジオフロントを結ぶ縦穴を突き抜けて、一気に青空へ飛び出して行った。

「何だこれ……」

 シンジは、自分が乗っているエヴァが起こした現象を目の当たりにして驚く。天高く舞い上がったエヴァの頭上から光の輪が広がり、空一面を赤い波紋で包み込んで行った。

「何なんだよこれ……」

 エヴァの放った光の影響で、朽ち果てた地上の街並が崩壊を始めた。街の瓦礫は、光に吸い寄せられているように見えた。しかし、それは違った。地表の下から姿を現した巨大な物体が、街全体を押し上げているのだった。

「僕のせいなのか……僕が槍を抜いたから」とシンジは言った。その表情は絶望に満ちていた。

「これって……」

「フォースインパクト」とカヲルが言った。

 思いがけない言葉を聞いて、シンジは息を飲んだ。

「その始まりの儀式さ」と言って、カヲルはゆっくりと顔を上げた。外の景色は地獄を呈していた。おびただしい数の〝インフィニティのなりそこない〟が空中に散らばって行く。

「カヲル君! 首輪が!」

 カヲルの首の周りに、今までにない電子反応が見られた。それを見たシンジは、焦りを覚えてカヲルの方へ手を伸ばす。しかし、カヲルのA・T・フィールドに阻まれて触れることが出来なかった。その時、シンジたちの乗ったエントリープラグが強烈な衝撃に襲われた。

「うわっ! ミサトさん!?

 ヴンダーが13号機に体当たりを仕掛けたのだ。

「A・T・フィールド最大! このままエヴァを封じ込めて! 主砲斉射用意! 極射弾装填! なんとしてもフォースの発動を食い止めるのよ!」

 最大出力で前進するヴンダーに強烈なGが掛かる。背後から船首に突っ込まれた13号機は身動きが取れない。ミサトはブリッジにしがみつきながら、大声で指令を出す。

「撃てぇっ!」

 ミサトの号令で4つの主砲が火を放った。主砲のビームは、ヴンダーの正面に展開されたA・T・フィールドに跳ね返されて13号機もろともヴンダーに直撃する。続いてミサトは構わず第二波を放つ。直後、進行方向の横から主砲に攻撃が加えられ、ヴンダーの司令室は衝撃に教われた。

「やられました! 主砲に直撃!」とミドリが叫んだ。

「アダムスの器か!」

 ミサトは攻撃のあった方を睨みつける。レイの乗る〝Mark.09〟は、容赦なく二発目の攻撃を放った。放たれた光線はヴンダーの機体に直撃し、その巨体を揺るがすほどの威力を見せつけた。

「中央部に被弾! 損害不明!」とヒデキが叫ぶ。

「舵が効きません! 落下します!」

 スミレの報告通り、ヴンダーの機体は地面に向かって急降下していた。機体はもはや、主翼を地面にこすりつけながら旋回し、墜落しないのがやっとの状態だった。危機的状況に陥ったヴンダーに対して、〝Mark.09〟の攻撃が追い打ちを掛ける。

「アダムスの器はヴンダー本来の主! 初号機から本艦の制御を奪い返すつもりだわ」とリツコが言った。

「なぜ? リンクが回復しない」

 レイは、〝Mark.09〟の中で不測の事態に困惑していた。エントリープラグのモニターは、SEELEゼーレの紋章で埋め尽くされていた。〝アダムスの器〟は、ゆっくりとヴンダーの機体に近づき、船体の一角に降り立った。

「よっと」

 アスカの乗った改2号機とマリの8号機が崖をよじ上って、地上に顔を出した。

「あっちゃー。こいつはしっちゃかめっちゃかな状況ねぇ」

 二人の目の前には、破滅的は光景が広がっていた。まるで赤い竜巻に飲み込まれた街全体が、洗濯機に掛けられてかき回されているような状態だった。

 その光景を見たアスカは「コネメガネはガキのエヴァを! ヴンダーは改2で助ける!」と意気込んだ。

 マリは「ラジャ!」と言って、それに応える。

 ヴンダーは危機的な状況に陥っていた。

「アダムスの器、排除できません!」とミドリが報告する。

「主制御システムに未確認データが侵入!」

 ヒデキが言った直後、司令室のモニターがダウンし、暗闇に包まれた。すぐに光りを取り戻すも、その時モニターに映っていたのは、SEELEゼーレの紋章だった。

「艦のコントロールが乗っ取られていきます!」とシゲルが叫ぶ。ミサトは、なす術のない状況に奥歯を噛むしかなかった。

 ヴンダーに取り憑いた〝アダムスの器〟は、脚部を生き物の臓器のような管に変えて、機体の奥へと侵入して来る。

「はっ」

 地上すれすれを旋回するヴンダーの機体を追いかけて、改2号機は主翼目掛けて大きくジャンプした。主翼の先端に右腕を掛けてよじ登ると、そのまま船体の方へ駆け出して、左腕のアームに取り付けられたガドリングを〝アダムスの器〟に向けて発射した。改2号機の攻撃を真正面に食らった〝Mark.09〟は、後ろにのけぞって体を撓らせた。

「ズルっ! ゼーレがやりそうなことね!」

 しかし、〝Mark.09〟はすぐに体勢を立て直して反撃に出た。頭部から放たれた光線の弾道を、アスカは華麗な身のこなして避ける。〝Mark.09〟の放った攻撃は、そのまま地上に着弾し、巨大な爆煙を上げた。

「モードチェンジ! コード777トリプルセブン!」

 アスカは改2号機のモードを切り替えて接近戦に持ち込んだ。〝Mark.09〟の背後に回り込み羽交い締めにする。その動きはあまりに素早かったため、レイは目視することができなかった。

「誰!?

「あんたこそ誰よ!」とアスカは叫んだ。

 背中に絡み付いた改2号機を、〝Mark.09〟は振りほどいて、後方へと投げ飛ばした。体を翻して船体へ張り付いた改2号機は、更に変形して長い尾を生やしたかと思うと、四足歩行の獣のような姿に変わった。〝Mark.09〟の頭部から光線が放たれる。これが直撃すれば、先程と同じような大爆発を引き起こし、ヴンダーもろとも粉々になりかねない。しかし、獣化した改2号機は、大きな口で光線を受け止めると、それを噛み砕くかのごとく拡散させて無効化してしまった。

「観測室より報告。改2号機、アダムスの器と会敵!」

 シゲルがミサトの方を向いて外の状況を報告する。

「頼むわ、アスカ!」

 ミサトはこの状況の打開をアスカに託した。

 再び、〝Mark.09〟へ飛び掛かった改2号機は、レイの機体を力任せに締め上げる。アスカは鬼の形相で目を光らせて獣化したエヴァと連動する。改2号機は、〝Mark.09〟の頭部に食らい付き、それを思い切り引きちぎった。

「こんな時、『綾波レイ』ならどうするの?」とレイがつぶやく。

「知るか! あんたはどうしたいの!」とアスカが叫ぶ。

 レイは少しの間を置いた後、意を決してエントリープラグを強制射出した。レイは、コントロールの利かなくなった〝Mark.09〟を捨てて、大空へ脱出して行った。

「これで……コアを!」

 アスカはエントリープラグが射出された穴に左腕のガドリングを突っ込んで乱射した。ぐったりとして動かなくなった〝Mark.09〟は、完全に沈黙したかのように見えた。しかし、〝Mark.09〟の体が一瞬赤く光った後、全ての損傷が元に戻った状態で反撃を始めた。

「こいつ! 全身がコアか! 時間もない……」

 アスカは考えた末、捨て身の手段で〝Mark.09〟を消し去る方法を取った。

「ごめん! 改2号機!」

 そう言って、アスカは大きなレバーを手前に引く。改2号機の背中からエントリープラグが強制射出され、アスカは大空へと脱出した。〝Mark.09〟の強力な顎が、改2号機の頭に食らいつく。改2号機の頭部が大きくひしゃげる。タイマーがカウントダウンを開始し、改2号機の体が発光した。頭を噛み潰された改2号機は、〝Mark.09〟を抱きしめるようにしてうずくまった。そのまま、カウントダウンの音が終わりを告げ、改2号機は自爆を持って〝Mark.09〟を仕留めた。

「制御システム回復!」とスミレが報告した。

 ヴンダー艦内のモニターが復旧し、〝アダムスの器〟から制御を取り戻したことが伺えた。ミサトはすぐさま次の行動を指示する。

「全艦緊急発進! 目標のエヴァをただちに追跡!」

「艦長! 主機が復元されるまでは無理よ!」

 リツコがミサトの指示を止めた。ミサトもそれは分かっていた。だが、焦る気持ちを押さえきれずに、何かをせずにはいられなかった。

「シンジ君……」

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 光に身を纏ったエヴァ13号機は、静かに、赤く染まった空の上に佇んでいた。

「僕のせいなのか……僕が、僕が……」

 シンジは目の前で起こった現象が全て、自分の引き起こしたことなのではないかと苦悩する。

「君のせいじゃない」とカヲルは言った。

「えっ」

 シンジは驚いて顔を上げた。

「僕が第13の使途になってしまったからね。僕がトリガーだ」

 カヲルは優しい声で、落ち着いた態度でそう言った。

「どうしよう……ねえ、どうしよう……」

 シンジは、すがるような目でカヲルを見つめた。

「カヲル君、僕は……どうしたらいいの?」

「魂が消えても、願いと呪いはこの世界に残る。意志は情報として世界を伝い、変えていく。いつか自分自身の事も書き換えていくんだ」

 シンジは、カヲルと自分との間に張られたA・T・フィールドに顔を付けて涙を流した。

「ごめん。これは君の望む幸せではなかった。ガフの扉は僕が閉じる。シンジ君が心配することはない」

 13号機は、天使のような美しさで、二本のロンギヌスの槍を掲げながらゆっくりと天に昇って行く。

「カヲル君……カヲル君が何を言っているのか、分からないよ!」

 シンジがそう叫んだ直後に、13号機は片方のロンギヌスの槍を振りかざし、自らの胸に突き刺した。強烈な痛みがシンジにも伝わる。

「シンジ君は安らぎと自分の場所を見つければいい。縁が君を導くだろう」

 続いて、もう片方の腕を振りかざし、13号機は二本目の槍も自身の胸に突き刺した。13号機は、そのまま空中で小さく踞る。

「そんな顔をしないで。また会えるよ、シンジ君」

 カヲルは満面の笑みで、泣きじゃくるシンジの方を向いていた。シンジは、何が起こっているのかも分からずに、カヲルに縋ろうとする。

「カヲル君!」

 カヲルの首に巻いてあったチョーカーが発動し、大量の血しぶきがシンジの目の前を覆う。シンジはとっさに身を低くした。しかし、何が起こったのか全く理解できないでいた。

「ガフの扉がまだ閉じない! ワンコ君がゼーレの保険か!」

 マリは空から落ちて来る13号機を見上げて言った。マリの操る8号機は、全力で走りながら13号機の落下地点へと向かっていた。完全に動きを止めた13号機は、真っ逆さまに落ちて行く。8号機は、思い切り大地を蹴って13号機の方へと飛び上がった。半ば強引に13号機を捕まえると、マリはシンジに向かって叫んだ。

「後始末は済んだ! しっかりしろワンコ君!」

 8号機の腕が13号機の光に浸食されていく。

「ぐずるな! せめて姫を助けろ! 男だろ!」

 シンジはカヲルを失ったショックで身動きが取れないでいた。

「ついでに……ちょっとは世間を知りニャ!」

 8号機は13号機の胴体に腕を突っ込むと、緊急射出のレバーを引いてシンジを13号機から吐き出させることに成功した。13号機は、光を失ってそのまま地面に落下していった。13号機が空に広げた大きな光の輪が消えて行く。街の下から浮かび上がった巨大な物体が上昇を止めて地上に落下した。辺りは、すでに壊滅状態にあった。

「ひどい有様だな。ほとんどがゼーレの目論見通りだ」と冬月は言った。

「だが、ゼーレの少年を排除し、第13号機も覚醒へと導いた。葛城大佐の動きも計算内だ。今はこれでいい」

 ゲンドウはデスクに座ったまま手を組んで冷静な態度を見せていた。

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

『全鑑、第二次警戒態勢を維持』

『パターン青、反応なし。警戒空域に機影を認めず』

『中央部損傷箇所の応急処置完了』

 損傷した8号機を乗せたヴンダーは、青さを取り戻した空を進行していた。戦闘が終わった後も、艦内は慌ただしくオペレーターの声が飛び交っていた。

「誰のおかげか分からないけど、フォースは止まった。ミサト、今はそれで良しとしましょう」とリツコが言った。

 ミサトは無言で前を見つめていた。

 

 突然、大きな音を立ててハッチが開かれた。エントリープラグの上部に切り取られた空から、目にしみるような光が差し込む。光の中から肩で息をしながら、中を覗き込むアスカの姿が浮かび上がった。アスカは、空っぽになったエントリープラグの中に小さく踞っているシンジを見つけると、ハッチの入り口によじ登って仁王立ちになった。エントリープラグ内の傍らには、シンジの持ち込んだS-DATが落ちていた。

「ガキシンジ。助けてくれないんだ。私を」

 アスカは、シンジを見下ろして言った。

「また自分の事ばっかり。黙ってりゃ済むと思ってる」

 シンジのエントリープラグは、脱出した後に崩壊した街の一角に不時着していた。赤く染まったビル。傾いた電柱。半分砂に埋もれたバスがそこらじゅうに散らばっていた。

「ふんっ」

 アスカは、動こうとしないシンジを見てため息をついた。振り返ってエントリープラグから飛び降りると、そのまま立ち去ろうとして歩き始めた。数歩進んだ所で立ち止まったアスカは、大きなため息をついて引き返す。今度は、エントリープラグの中に入り込んで、小さく踞っているシンジの背中を蹴飛ばした。

「まだ甘えてる! いつまでたっても手間のかかるガキね!」

 アスカは気力を失っているシンジを無理矢理外に引きずり出した。

「ほら、これ付けて。んもう! 立ってるくらい自分でできるでしょっ!」

 いつまでもしゃんとしないシンジに苛立ち、アスカはシンジの口をつまんで文句を言った。その時、遠くの方から誰かが歩いてくるのが見えた。

「ん……」

 アスカたちの方へ歩いてきたのは、〝Mark.09〟を操縦していたレイだった。

「さっきのパイロットね。綾波タイプの初期ロットか」

 アスカは腰に手を当ててそう言った。レイは無表情のまま何も答えずにいた。アスカはやれやれといった様子で肩の力を落とした。

「ここじゃあL結界密度が強すぎて助けに来れないわ」

 もう一度エントリープラグの上に登ったアスカは、レーダーをかざして辺りの様子を伺った。

「リリンが近づける所まで移動するわよ」

 そう言って、アスカはエントリープラグからひょいと飛び降りた。

「ほら!」

 アスカは、そのままシンジの手を引っ張って移動を始めた。シンジはよろめきながらアスカに引きずられて行った。その時、シンジの手元からS-DATが離れ、ボトリと地面に落ちた。それに気づかず、アスカは先へと歩いて行ってしまう。レイは、地面に転がったS-DATを見つめた。それに何の意味があるのか、彼女自身は知らないままに。

 ――つづく。


 エンディング曲「桜流し」


 ――予告。

 生きる気力を失ったまま放浪を続ける碇シンジ。

 たどり着いた場所が彼に希望を教える。

 ついに発動する補完計画。

 ファイナルインパクト阻止のため、最後の決戦を挑むWILLEヴィレ

 空を裂くヴンダー。赤い大地を疾走するエヴァ8+2号機。

 次回、シン・エヴァンゲリオン劇場版:||

 さぁて、最後まで、サービスサビスーぅ!


映像の書き起こし部分に関しては著者の独自の解釈を含みます。よって、厳密に公式の意図を反映したものではない可能性があることをご留意ください。また、作品に登場する直接のセリフ等は全て©カラーに帰属します。

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