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『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q / EVANGELION: 3.0 YOU CAN (NOT) REDO.』のストーリーとセリフ書き起こし

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』タイトル
©カラー/khara

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 シンジは突然目を覚ました。そこは、赤い光によって不気味に照らされた、隔離施設のような部屋だった。シンジが目覚めたのは、その中に置かれた無骨な装甲で被われているベッドの上だった。

 慌ただしく駆けていく足音と、ストレッチャーの車輪がきしむ音とが、廊下に響き渡る。シンジの目覚めたベッドは、何者かによってエレベーターに乗せられて、どこかへ移動しているようだった。

「心肺機能は正常です。四肢の麻痺も認められません。はい。目は開いてます」

 シンジの直ぐ近くで、若い女性の声が聞こえる。その女性は、仰向けになって天井を見上げているシンジの視界を覗き込むようにして、シンジに声を掛ける。

「私の言葉が理解できますか?」

 若い女性は、褐色の髪にベレー帽を乗せ、首に青いスカーフを巻いた格好をしていた。表情はまだあどけなく、女性というよりは女の子と言った方がしっくりくる容姿だ。シンジは、状況が理解できないという風な怪訝な表情を向けながら、彼女に質問を返した。

「ここは……どこですか?」

「言葉は話せます。意識は戻ったようです」

 ベレー帽の女の子は、その質問には答えずに状況報告に務める。彼女は、シンジの寝ているベッドの横に座り、通信機器で外部と連絡を取っているようだった。この場所が病院でないことは容易に想像が付いた。なぜなら、シンジの両手、両足はベッドに拘束され、ベッドの四隅に銃を構えた軍人らしき男達が立っていたからだ。

「確か……綾波を助けて……」

 シンジは過去の記憶から今の状況に繋がるまでの道筋を探そうとしていた。

「はい……どうやら記憶の継続性も認められます」

 ベレー帽の女の子は、シンジの様子を見て通信先の人物に彼の状態を伝えてゆく。

「あの……綾波は?」

 シンジは、まだ半分寝ぼけたような声色でベレー帽の女の子に問いかける。

「これが誰か、わかりますか?」

 ベレー帽の女の子はシンジの質問を無視して、彼の顔を被っているディスプレイを反射モードに切り替えた。

「……僕、ですけど……」

 シンジは、自分の顔が反射して映るディスプレイを自信の無い表情で眺めながら言った。

「自己認識もあります。問題なさそうです」

 ベレー帽の女の子は、シンジの反応だけを観測して淡々と報告を続ける。

「……何だ?」

 シンジは自分が置かれた状況を一切把握できなかった。その横では、機械的にシンジの状態を確認するベレー帽の女の子の声が聞こえていた。

「尿意や空腹感はありますか?」

 ──。

 エレベーターが地下のフロアへ到着して、シンジの乗せたベッドは巨大な空間へと運ばれて行く。周囲には、何らかの作業を進めるスタッフの声が飛び交っていた。

『補給作業、搬入リストの86パーセントまでクリア』

「稼働中のN2エヌ・ツーリアクターは出力で90パーセントを維持、圧力便は手動で解放してくれ」

「半径1200以内に艦影なし。未確認飛行物体も認められず」

「乗員の移乗は、Dブロックの船を最優先」

「食料搬入作業の人手がまるで足りない! 至急手当してくれ」

「艤装作業、ロードマップをチェック。武装タンクが予定より3パーセント遅れています」

 シンジの乗せたベッドが通り抜けようとしている空間には、何かの操縦席と思われる椅子がアームの先端に付いた装置が何本も伸びていた。無数の丸い窓がはめ込まれた壁はドーム状に湾曲していた。その様子から、ここが普通の民間施設や居住空間ではないことがはっきりと伺えた。

「よっと。検体、BM-03、拘引しました」

 ベレー帽の女の子が、ブリッジの上で腕を組んで立っている女性に状況を報告する。ストレッチャーの車輪が固定され、シンジは目的の場所へと運ばれてきたようだった。

「了解。拘束を解いて」

 その女性が冷静な声で指示を出すと、シンジとストレッチャーを固定していた拘束器具が音を立てて解除された。

「下がっていいわ」

 シンジは、体にまとわりついた重力を引きはがすようにして、ベットからゆっくりと体を起こす。そして、ブリッジの上に佇む女性の背中に目を向けた。その時、周囲のスタッフたちの妙な気配に気づき、彼らのいる方へと視線を送った。彼らは、各々の持ち場に付きながらも、明らかにシンジのいる方へ意識を集中させていた。彼らは、憎しみとも怯えとも付かない表情を浮かべて背中越しにシンジを見ていた。シンジは自分の置かれている状況が把握できずに動揺する。そして、その答えを求めるようにして、ブリッジの女性の方へ顔を戻した。

「ミサトさん……?」

 シンジには見覚えのある横顔だった。しかし、半信半疑のまま口に出した声に対する応答は冷たいものであった。

「碇シンジ君……でいいのよね?」

 ミサトは、ただ既成事実を確認するように、奥にいるもう一人の女性へ向かって言葉を発した。

「そうね。物理的情報では、コード第3の少年と完全に一致。生後の歯の治療跡など身体組織は、ニアサー時を100パーセント再現しているわ」

 カーキ色のジャケットに身を包んだ女性は、電子カルテを眺めながらそう言った。金色の短髪と知的な声、そして彼女の発する語彙から、その女性は赤城リツコであることが伺えた。シンジはベッドから降りると、素足で床の上に立ち尽くしてブリッジを見上げた。

「なお、深層シンクロテストの結果は分析中」

 リツコは、冷静沈着な口調で淡々と状況の説明を続ける。

「頸部へのDSSチョーカーは?」

 ミサトは、立ち上がったシンジの方を見据えながら、現状の確認を続ける。彼女の視線はサングラスに被われて、その感情は一切分からない。

「すでに装着済よ。葛城艦長」

 リツコは自分の成すべき説明を終えると、ミサトの方へ振り返りながら念を押すようにして艦長の名を呼んだ。

「葛城艦長……やっぱりミサトさん?」

 その時、シンジの首に巻かれていたチョーカーから電子音が発せられた。

「あれ……?」

 リツコは、手に持っていたコントローラーを操作して、表示されたステータスを〝ACTIVE〟に切り替える。

「作動正常。パスコ―ドは艦長専用に」

「了解」

 そう言ってリツコの手から、ミサトにコントローラーが手渡される。

「なんなんですかこれ? はずしてくださいよもう……」

 シンジはチョーカーに手をかけて、首に巻き付いた鉄の輪を剥がそうとする。

「絶対にはずしませんよ……それ……」

 ベレー帽の女の子は、両手でバインダーを抱きかかえながら独り言のようにつぶやいた。

「面会終了。彼を隔離室へ」

 そう言ってミサトはモニターの方に向き直す。シンジは手を止めて唖然とした表情をブリッジに向けた。

 

 その時、正面のモニターが〝EMERGENCY〟の文字で赤く染まり、場内にアラーム音がけたたましく鳴り響いた。

「デコイマルイチとマルゴが消滅。波長も補足」

 状況を読み上げる女性スタッフの声が場内に響く。

「何だろ、これ……?」

 女性オペレーターの一人・北上ミドリが、モニターに映ったアイコンを指で触れる。

「パターン青だよ!」

 男性オペレーターの日向マコトが、彼女のとぼけたリアクションに大声をぶつける。

「目標を識別! コード4C。ネーメズィスシリーズです」

「また来たか……」

 ミサトは招かれざる客の知らせに奥歯を噛む。

「深層が立体的よ! まず、私たちをここに封鎖するつもりね」

 リツコはモニターから得られる情報を的確に読み取っていく。

「まだここを動くわけにはいかない。主機関連作業のみ続行」

 ミサトは徹底抗戦を敷く事を決断して前を向く。

「全艦、第二種戦闘配置! 目標、全ネーメズィスシリーズ」

 ミサトは、全オペレーター向けて力強く宣言した。

「了解。全艦第二種戦闘配置」

 それを受けてリツコがモニターの表示を切り替える。

「対空・対水上および水中戦用意!」

 続いて、マコトが作戦の進行を引き受ける

「補給作業を中断。乗員移乗を最優先!」

 もう一人のオペレーター、青葉シゲルは受話器を手に取って指示を出す。

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 氷上の艦隊は、赤い海の裂け目に停泊していた。大量の輸送ヘリがコンテナを吊り下げて離陸を開始する。甲板に置かれた多量の資材の隙間で、スタッフが誘導灯を振る。

『積み残しは置いて行け。乗組員の移動が最優先だ』

 オペレーターの声が無線の中を飛び交う。慌ただしさは即座に辺り一面に伝染していく。

『各砲塔、各個に発射準備』

 吹雪で白みがかった景色の中で、艦隊の主砲が準備運動を始める。

「主機伝道システムは注入作業を継続。急げよ!」

 大柄な体つきのオペレーター、高雄コウジは、凛々しい声で現場に指示を与える。

N2エヌ・ツーリアクター。出力99パーセントで稼働中』

 船の上に積まれた巨大タービンが回転を始める。艦隊から無数に伸びたパイプが、ある一つの機体に向かって動力を供給していく。

「戦闘配置よ! さっさと部署について。そこ! グズグズしない!」

 海上に浮かべられた施設の一角では、オペレーターの伊吹マヤが慌てるスタッフたちに激を飛ばしていた。

「無理ですよ整備長。なんせ民間人も混じってる寄せ集め集団ですよ?」

 弱音を吐く男性スタッフを睨みつけて、マヤは声を荒げる。

「言い訳無用! さっさと手を動かせ!」

 マヤはうんざりした表情でそっぽを向くと、吐き捨てるようにして愚痴をこぼす。

「ちっ! これだから若い男は……」

 

「ええと、艤装作業をここで中断。隔壁の閉鎖を開始って……これか……?」

 若手のオペレーター多摩ヒデキは、慣れない手つきでモニターのコントロールキーをいじっていた。説明書を片手に操作する手つきは、まるで頼りにならない。

「対空監視を厳として、トナーの方位はこれ」

 ミドリはモニターに映し出された情報を指差し確認しながら実戦に備えているところだった。

「北上! 甲板作業の状況は?」

 シゲルがミドリに確認を促す。

「それ、私の担当ですか?」

 ミドリは先輩の方へ振り返り、初耳だ、という態度を取る。

「兼任だ! 当然だろう!」

 シゲルはそんなミドリの態度を気にすることなく続ける。

「ええ〜マジィ〜?」

 ミドリは、女学生のようなアクセントで思ったままを声に出す。その緊張感のないやり取りの傍らで、ミサトはモニターを見つめたまま、事の展開に思考を張り巡らせていた。

 

「よいしょっと。移動は危険です。ここにいましょう、よと……」

 かがみ込んで作業をしていたベレー帽の女の子は、腰に手を当てて立ち上がると、そのまま伸びをして身体の疲れをほぐした。

「せやけど、艦橋での戦闘配置……緊張するわぁー」

 シンジは、彼女の声を気にすることなく、ブリッジの上で指示を出しているミサトの姿を見ていた。

「……了解。各対空システムを連動。初号機保護を最優先」

 ミサトの発したその言葉に、シンジの表情は驚きの色に変わる。

「初号機……!?

 

 エントリープラグを積載して海上に浮かんでいた輸送船が、突如発生した大きな波に飲み込まれそうになる。波の発生源は赤い海から伸びる巨大な光の柱だった。水しぶきを上げながら幾本もの柱が海面を進んで行く。そこで引き起こされた波が、まるで生き物のようにうねりながら、ミサトたちの乗る艦隊を襲って行く。

「来ました! 目標の光の柱を確認。えっと……数がなんだか増えてます!」

 ミドリが真剣な声で状況を報告する。

「目標コアブロックは捕捉不能。おそらく位相コクーン内に潜伏中と思われます」

 シゲルが冷静を保ちながら報告を続けるものの、艦内の緊張感は一気に高まった。

「まずいわ。このままだと飽和攻撃を浴びるわ」

 リツコは事の展開を懸念する。

「接触まで、あと600秒!」

 ミドリがカウントダウンを開始する最中、リツコが作戦の変更を申し出る。

「葛城艦長。艦隊の即時散会を提案します。乗員の定数および練度不足。おまけに本艦は艤装途中の未完成。とどめに、攻撃目標たるコアブロックも捕捉できない。つまり、現状での勝算はゼロです。ここはいつも通り撤退を。なすすべがないのよ。葛城艦長!」

 しかし、ミサトはそれを聞き入れなかった。

「……だからこそ、現状を変えて後顧の憂いを断つ。副長、飛ぶわよ」

「飛ぶ……? まさか、主機を使う気!?

 リツコは、ミサトの予想外の発言に困惑する。

「全艦、発信準備! 主機、点火準備!」

 ミサトは、声を強めて独断でオペレーターに通達する。

「えぇー!」

 その場にいた誰もが、その宣言に驚きを隠さない。

「いきなり本艦での実戦は無茶よ。葛城艦長」

 リツコは科学者としての合理的見解の元、ミサトの発言を撤回するように求める。

「同意します! 試運転もなしに、危険すぎます!」

 ヒデキもそれに賛同して率直な意見をぶつける。

「重力制御は未経験です。自信ありません」

 新人オペレーターの一人、長良スミレも本心を伝える。

「勝てない戦はなしがいいな。私まだ死にたくないんです」

 ミドリは感覚的に意見する。

「死ぬときゃ死ぬ。そんだけだ。若いもんが細かくいうな」

 コウジが肝の据わった意見を返すも、ミドリはそれを聞こうとはしなかった。

「ええー! 年寄りなら慎重に行くもんでしょ!?

「けっ」

 それを聞いたコウジは、面倒くさそうな表情で黙り込んだ。

「無茶は承知! 本艦を囮に目標を引きずり出します。神殺しの力、見極めるだけよ」

 ミサトは強引に自分の判断を押し通す。

「しかし、肝心の点火システムは未設置なのよ。まさか……エヴァを使う気?」

 リツコはミサトの意図を察知して表情を強張らせた。

「マリ!」

 ミサトは有線のレシーバーを手にすると、作戦の実行に取りかかろうとする。

『8号機、まだ無理!』

 その声を聞いて、ミサトはすぐさま通信先を切り替える。

「アスカ!」

 シンジは、その名前を聞いてすぐに反応する。

「……アスカ?」

 エヴァ改2号機の格納されていた輸送艦のハッチが開き、気泡が水中に放たれる。

『もうやってる。要は点火器をぶち込めばいいんでしょ?』

「頼むわ」

 アスカの声を聞いたミサトは、表情を変えずに短く答えた。その声には、冷静さの中に深刻さをにじませていた。

「しかし、主機周辺は結界密度の問題で……それに、換装作業中でしょ?」

 リツコは、作戦実行に伴う懸念点を伝える。

「ま、目的優先、人命軽視は大佐のモットーだしね。気にせず出るわよ! エヴァ改2号機、起動!」

 アスカのかけ声と共に、エヴァ改2号機の目が光を放つ。船底のハッチから真紅の機体がゆっくりと水中へエントリーすると、同時に武器の入ったコンテナが水中へリリースされる。中性浮力で機体を水平に保ちながら、エヴァ改2号機はそれを掴んで潜水を開始した。

「ったく、せっかくのニュースタイルだっちゅうのになんとも地味な出陣ね」

 艦内の窓の外にエヴァの姿を見つけたシンジは、窓に駆け寄って外の光景を食い入るように見つめる。そして、水中を進行するエヴァの姿がシンジの目の前を横切って行く。その姿は、まるで水族館あにある巨大な水槽の中で優雅に泳ぐサメのようだった。

「……やっぱりエヴァ改2号機! よかった……無事だったんだアスカ……」

 シンジは安心すると同時に真剣な表情に変わった。そして、何かを決意したような顔つきで、ミサトの方に振り向いた。

「……ミサトさん、僕は……」

「全艦、第一種戦闘配置!」

 ミサトは、シンジの声は気にも止めずに次の指示を出す。艦内の照明が赤に変わり、オペレーターの声が艦内に響き渡る。

『全艦、第一種戦闘配置。繰り返す。全艦、第一種戦闘配置』

「戦闘指揮系統を移行。主要員は戦闘環境へ」

 リツコは自分のやるべき作業へと意識を切り替える。彼女は、一度決定した事実にあらがうような真似はしない。

「重力バラスト、準備」

 ミサトが指示を続ける。

「了解。全ベントをチェック」

 スミレもそれに従い、準備を進めて行く。ミサトは更に次の指示を出して行く。

「艦の主制御をアンカリングプラグへ集中」

「了解。ディセンド準備。インジェクター確認。カウント入ります」

 コウジが落ち着いた声でそれに答える。

 ミサトが淡々と指示を出して行く姿を見ながら、シンジは一人取り残されそうになる。しかし、意を決したように一歩踏み出すと、自分も作戦に加わりたいと願い出る。

「ミサトさん! 初号機ここにあるんでしょ! 僕も乗ります! アスカを手伝います!」

「ちっ」

 その発言を聞いたミドリが舌打ちをした。オペレーターたちの間に緊張が走る。シンジがエヴァに乗る事は、ここでは歓迎されていないのだ。

「僕は乗らなくていいんですか? ミサトさん!」

 シンジは振り絞るような声で訴えかける。しかし、リツコはその提案をあっさりと退けた。

「そうよ。あなたがエヴァに乗る必要はありません」

「必要ないって……あの……じゃあ、僕は何をすればいいんですか? ……ミサトさん……」

 オペレーターの乗ったコントロールデスクと、ミサトを乗せたブリッジは、戦闘隊形に移行するために艦内の上部へと移動を開始する。ミサトとシンジの距離は、みるみるうちに離れていった。なす術の無いまま立ち尽くすシンジは、ただそれを見上げるしかなかった。

「碇シンジ君。あなたはもう……何もしないで」

 ミサトはサングラスを外して、シンジの方を見下ろす。その視線は恐ろしく冷たかった。ブリッジは天井付近に差し掛かると、球状の殻に包まれて見えなくなった。そして、その球体は回転しながら上昇を続け、天井のハッチが大きな音を立てて閉じた。シンジは言葉を無くし、ただうなだれるしかなかった。

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