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『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破 / EVANGELION: 2.0 YOU CAN (NOT) ADVANCE.』のストーリーとセリフ書き起こし

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』タイトル
©カラー(khara, Inc.)

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 NERVネルフ松代基地に搬送される3号機。トラックと共に車で現地へ移動中だったアスカは、携帯に留守電が入っていることに気づいて再生する。

『一件の新しいメッセージがあります。一番目のメッセージです』

 音声ガイダンスが流れた後にリツコの声が聞こえる。

『はい、レイ。話していいわよ』

 アスカはレイが話し始めるのを待った。しかし、受話器の向こうからは一向に声が聞こえてくる様子はない。いつまでも続く無音の通話に、アスカは苛立ち始める。いい加減もう切ってしまおうかと思ったその時、レイの細い声が受話器の向こうから聞こえた。

『――ありがとう』

 たった一言だけだった。アスカは一瞬驚いた。しかし、なんだか全てがどうでも良くなったような清々しい気持ちになって携帯を閉じる。

「ふんっ! バッカじゃないの! 私がエヴァに乗りたいだけなのに」

 アスカは助手席から外の景色を眺めて、運転しているミサトに言う。

「3号機、私が気に入ったら……赤く塗り替えてよね」

 不器用なアスカを見て、ミサトは優しく微笑む。

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 2年A組の教室。

「おはよう、相田君」

「うぃ〜っす」

 登校してきたケンスケに、シンジが尋ねる。

「あれ、トウジは?」

「今日は、小田原の病院。妹さん、退院するんだって」

 晴れた表情でケンスケが答える。しかし、シンジは複雑な内心を隠せなかった。

「あ、そっか……」

「トウジから伝言。〝もう気にすんなや、妹も感謝しとる〟、だってさ」

 ケンスケは右手で眼鏡の位置を直しながら言った。

「碇、本当に良かったな」

「うん」

 シンジはようやく安堵の表情を浮かべた。するとケンスケは、意味深な声を出しながらシンジの方へにじり寄って来た。

「今日はぁ〜綾波にぃ〜お呼ばれなんだろぉ?」

 そして、シンジの頭に掴みかかると、髪をくしゃくしゃにかき回す。

「ほんっと羨ましいよぉーーぅうわぁーーっ!」

 足をもつれさせてバランスを崩したケンスケは、シンジと共に床へ倒れ込んだ。

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

『エヴァ3号機、有人起動試験総括責任者到着。現在、主管制室に移動中』

 リツコは、ミサトたちに遅れて松代に到着した。白い大きな帽子とサングラスを身に着けたリツコが、V-22・オスプレイから降り立つ。現場では、着々と準備が進められていた。

『地上仮設ケージ、拘束システムのチェックの内容、問題なし』

『アンビリカルケーブル、接続作業開始』

『コネクターの接続を確認』

『主電源切替え終了。内部電圧は、規定値をクリア』

『エントリープラグ、挿入位置で固定完了』

『リフト1350までをチェック、問題なし』

「了解、カウントダウンを再開」

 ミサトは作業状況を確認しつつ指示を出していく。

『カウントダウンを再開、地上作業員は総員退避』

『テストパイロットの医学検査終了。現在、移動隔離室にて待機中』

「あとはリツコに引き継いで問題なさそうね」

 縦長のコントロールルームで状況を見ていたミサトが一息つこうと思ったとき、スカートのポケットから携帯の呼び出し音が鳴った。

「守秘回線? アスカから?」

「どうしたのアスカ? 本番前に」

 ミサトはコントロールルームから出て仮設の橋を渡りながら電話に耳を傾ける。

「なんだかミサトと二人で話がしたくってさ」

 アスカは真新しいプラグスーツに着替えながら化粧台に置いた携帯に話しかける。

「そう。今日のこと、改めてお礼を言うわ。ありがとう」

「礼はいいわ。愚民を助けるのがエリートの義務ってだけよ。元々みんなで食事ってのは苦手だし、他人と合わせて楽しい振りをするのも疲れるし、他人の幸せを見るのも嫌だったし、私はエヴァに乗れれば良かったんだし、元々一人が好きなんだし、馴れ合いの友達は要らなかったし、私をちゃんと見てくれる人は初めからいないし、成績のトップスコアさえあればネルフで一人でも食べていけるしね」

 ミサトはアスカの声を静かに聞いている。

「でも最近、他人と居ることもいいなって思ったこともあったんだ。私には似合わないけど」

「そんなことないわよ。アスカは優しいから」

 ミサトは優しい口調で声を掛ける。アスカは準備を済ませて背伸びをする。

「こんな話ミサトが初めて。なんだか楽になったわ。誰かと話すって心地いいのね。知らなかった」

「この世界は、あなたの知らない面白いことで満ち満ちているわよ。楽しみなさい」

 ミサトは丘の上にある、3号機仮設ケージの方を眺めて言う。

「うん。そうね。ありがと。ミサト……」

 そう言ってミサトは自分の着たプラグスーツをまじまじと見回す。

「ところでさ、赤いのはいいんだけど、このテスト用プラグスーツって……見え過ぎじゃない?」

 

「エントリースタート」

 リツコの号令と共にテストが開始される。

『L.C.L.電荷』

『圧力、正常』

『第一次接続開始』

『プラグセンサー、問題なし』

『検査数値は誤差範囲内』

「了解。作業をフェーズツーへ移行。第2次接続開始」

 エントリープラグ内のアスカの元にも、リツコの指示する声が聞こえている。

「そっか……私、笑えるんだ」

 アスカは、コックピットに座りながら、新しく芽生えた自分の気持ちに気づいて微笑む。

 その時、コックピット内の景色に異常が発生し、侵食を開始する。光の粒と笑い声に包まれたアスカは、精神を犯されて3号機を暴走させる。

「プラグ深度、100をオーバー。精神汚染濃度も危険域に突入!」

 女性オペレーターがコントロールルームに合流したミサトとリツコに報告する。

「なぜ急に!?

 ミサトが焦りを見せる。

「パイロット、安全深度を超えます!」

 その報告を聞いてリツコが声を上げる。

「引き止めて! このままでは搭乗員がヒトでなくなってしまう!」

 ミサトはすぐさま手を打とうとする。

「実験中止! 回路切断!」

「だめです! 体内に高エネルギー反応」

「まさか……」

 リツコに嫌な予感がよぎる。

「使徒!」とミサトが叫んだ。

 仮設ケージに拘束されていた3号機が雄叫びを上げると同時に大爆発が発生した。

 

「え……松代で爆発事故……?」

 シンジは食事会に向かう途中に、携帯で連絡を受ける。

 ゲンドウを乗せた車も同じ所に向かう途中で、Uターンして予定を変更する。

 レイの家には諜報部員が駆けつけていた。レイの後ろで沸騰した鍋が吹き零れる。

 

 第1発令所では冬月が指揮を執っていた。

「被害状況は?」

「不明です。仮設ケージが爆心地の模様。地上管理施設の倒壊を確認」

 シゲルが現状を報告する。

「救助および第3部隊を直ちに派遣。戦自が介入する前に全て処理しろ」と冬月が指示を出す。

「了解」

「事故現場南西に未確認移動物体を発見。パターンオレンジ。使徒とは確認できません」

 マコトが状況を報告している間に、ゲンドウが司令席に座って発令所のある階へと上がってくる。

「第一種戦闘配置」

 躊躇ないゲンドウの声に、冬月が振り返る。

「碇……」

「総員、第一種戦闘配置だ。修復中の零号機は待機。初号機はダミープラグに換装後、直ちに出撃させろ」

 地上は、ひぐらしが鳴き始め、あたりはすっかり夕焼け色に染まっていた。ゲンドウの命令を受けた部隊は、それぞれ戦闘配置の準備を進めていた。

『第5戦車中隊、18号防衛線に展開終了』

『主電源延長ケーブルの接続作業は、後2分で完了予定』

『支援機動打撃部隊を配置完了。支援航空部隊は別命あるまで待機』

「あの……ミサトさんやアスカ達は」

 初号機に搭乗したシンジは、山の谷間に機体を屈めて待機していた。

「現在全力を挙げて救出作業中だ、心配ない」

 シゲルが通信でそれを伝える。

「でも他のエヴァも、ミサトさんもいなくて、僕一人じゃどうしようもないですよ」

「作戦系統に問題は無い。今は碇司令が直接指揮を取ってるよ」

 シンジのいるコックピットに中継し、マコトが現状を知らせる。

「父さんが……?」

「東御付近で映像を捉えました。主モニターに回します」

 シゲルが主モニターを外の映像に切り替えると、そこにエヴァ3号機が映し出された。

「やはりこれか……」と冬月が言う。

「活動停止信号を発信。エントリープラグを強制射出」

 ゲンドウの指示が実行されるが、3号機のエントリープラグは異物に阻まれて射出することができない。

「だめです。停止信号およびプラグ排出コード、認識しません」とマヤが報告する。

「エントリープラグ周辺にコアらしき侵食部位を確認」とシゲルが続ける。

 マコトが向かってくるエヴァの情報を見て声色を変える。

「分析パターン出ました! ……青です」

「エヴァンゲリオン3号機は、現時刻を持って破棄。監視対象物を第9使徒と識別する」

 ゲンドウは顔の前に手を組んだまま、淡々と命令を告げる。

 

『目標、接近』

 初号機内で待機していたシンジの元へ、オペレーターからの通信が入る。

 前を見据えるシンジ。地平線に沈む前の太陽が浮かんでいる。目の前には水田が広がっている。

『地対地迎撃戦、用意!』

『阻止部隊、攻撃開始!』

 地上に配置された戦車の砲撃が始まる。

「はっ。まさか……使徒? これが使徒ですか?」

 シンジは目標の姿を確認して目を疑った。

「そうだ。目標だ」とゲンドウは答える。

「目標って、これは……エヴァじゃないか。……そんな」

 シンジの正面に3号機が近づいて来る。激しい砲撃を浴びながら、ゆっくりと歩いている。

「目標は接近中だ。お前が倒せ」

 シンジは動くことができなかった。なぜなら目標がエヴァということは、中に人が乗っているかも知れないからだ。

「でも、目標って言ったって……アスカが乗ってるんじゃないの……アスカが……」

 操縦桿を握る手が震えている。シンジは攻撃することができない。

 3号機は初号機から少し離れた場所で一旦立ち止まると、雄叫びを上げて高く飛び上がる。そのまま体を捻って回転させると、初号機に向かって飛び蹴りを食らわせる。強烈な一撃を浴びて、初号機は地面に叩きつけられる。3号機は獣のように四つん這いになって着地する。

「くそっ……! はっ、エントリープラグ……やっぱり乗ってるんだ」

 シンジは3号機の背中に、まだエントリープラグが入っているのを発見してしまう。3号機は、無防備な姿勢で立ち上がった初号機の首に腕を伸ばして掴み掛かる。そして、腕力で持ち上げると、山腹に叩きつけて首を締め上げる。シンジは、なんとか腕を首から引き剥がして逃れようとする。しかし、3号機は肩から人間と同じような腕を二本生やして攻撃を続ける。合計4本の手で押さえつけられた初号機は、完全に動きを封じられてしまう。肩から生えた人間のような手が、初号機の首を締め上げる。さらに、そこから侵食を開始する。

『装甲部頚椎付近に侵食部位発生』

「第6200層までの汚染を確認」

 マヤが変化するモニターの数値を追う。

「やはり侵食タイプか、厄介だな」

 冬月が主モニターの方に身を乗り出す。

『初号機、A・T・フィールド不安定!』

「生命維持に支障発生、これ以上はパイロットが危険です!」とマヤが叫ぶ。

「いかん、神経接続を28パーセントにカットだ!」と冬月が声を上げるが、ゲンドウがそれを止める。

「待て」

「しかし碇、このままではパイロットが死ぬぞ」

 するとゲンドウは、防戦一方のシンジに通信を入れる。

「シンジ。なぜ戦わない?」

「だっ……て……アスカが乗ってるんだよ……父さん……」

 シンジは苦しみながらも反撃しようとしない。

「構わん。そいつは使徒だ。我々の敵だ」とゲンドウは続ける。

「でも……できないよ……人殺しなんてできないよー!」

「お前が死ぬぞ!」とゲンドウは声を強める。

「いいよ! アスカを殺すよりはいい!」

 そうシンジが言い切ると、ゲンドウは作戦変更を指示する。

「構わん。パイロットと初号機のシンクロを全面カットだ」

「碇……!」

 冬月はゲンドウの決断を危惧する。

「カットですか!?

 マヤがゲンドウの方へ振り返る。

「そうだ。制御をダミーシステムに切り替えろ」

「しかし、ダミーシステムにはまだ問題も多く……赤木博士の、指示もなく……」

 マヤは最悪の事態を考えて躊躇する。しかし、ゲンドウは断固とした姿勢で怒鳴る。

「今のパイロットよりは役に立つ。やれ!」

「……はい」

 マヤがゲンドウの指示を実行すると、シンジの乗ったコックピットがシャットダウンする。

「はぁっ、はぁっ……はっ」

 首の苦しみから解放されたシンジは大きく息を吐く。しかし、直ぐに再起動が掛かり、コックピットに見たこともない装置が出現する。

「何だこれ……何をしてるんだ父さん!」

 シンジはダミーシステムに操縦桿を乗っ取られて動揺する。

「主管制システム、切り替え終了」

『全神経回路、ダミーシステムへの直結完了』

『ダミーシステムでの活動時間は最大208秒です』

 準備が整うと、ゲンドウはすぐさま攻撃の支持を出す。

「構わん、システム解放、攻撃開始」

 

 ――BGM「今日の日はさようなら」

 

 初号機は、3号機の手を力で跳ね除けると、3号機の首に掴み掛かった。3号機は、強烈な締め上げに苦しみもがき、形勢が一気に逆転する。

「これが、ダミーシステムの力なの……」

 マヤは主モニターに移る映像を見て恐怖を覚える。

『ダミーシステム、正常』

『制御リミッターが解除されていきます』

 初号機が力を込めると、3号機の首が音を立てて折れた。その音と共に、初号機の首を絞めていた人間のような腕が力なく垂れ下がる。初号機は、3号機の首を掴んだまま体を持ち上げると、振り回して地面に叩きつけた。そして、3号機の拘束具を無理やり引き剥がすと、肉を食いちぎって辺りにばら撒いていく。一瞬のうちに血や内臓が街に散乱する。初号機の攻撃を受けて、3号機は完全に動きを停止させる。初号機は雄叫びを上げると、3号機の顔面を殴りつけて破壊する。その後も止まることなく続く殺戮を見て、発令所の職員たちは凍りつく。

 シンジは外で何が起こっているのか見ることができずに苛立ちを募らせる。

「なんだよ父さん……なんだよ……! 何やってんだよ!」

 シンジは、操縦桿を無理やり動かそうとする。

「くそっ、止まれっ! 止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ……」

 初号機は、3号機のエントリープラグを口に咥えると、それを噛み砕こうとする。その異様な音に気づいたシンジは、嫌な予感を感じて動きを止める。

「……なんの音だ!?

「やめろっ……!」

 ギシギシと鉄が圧縮されていく嫌な音が響く。シンジが必死に叫ぶ。しかし、無常にも初号機はエントリープラグを噛み砕いてしまう。

「やめろおぉぉぉぉぉーーーーーっっっ!」

 ひしゃげたエントリープラグ。そこから漏れる大量のL.C.L.。初号機は遂に活動を停止させる。太陽が山の向こうに沈む。空には虹が架かり、美しい景色となる。

 

 3号機の爆発があった松代付近は救助活動で慌しくなっていた。

「生きてる……」

 ミサトはゆっくりと目を覚まし、現実を確かめる。ミサトは左腕に包帯を巻いて寝かされていたが、命に別状はなさそうだった。ミサトが横を向くと、加持が心配そうに見守っていた。

「加持……」

「良かったな、葛城」

「……リツコは?」

「心配ない。君よりは軽症だ」

「そう……」

 ミサトは安堵の表情を浮かべるが、直ぐに真剣な面持ちを取り戻す。

「……アスカは? エヴァ3号機は!?

「〝使徒〟、として処理されたそうだ。初号機に」

「えっ!?

 無念そうにそう継げた加持の言葉を聞いて、ミサトは胸を締め付けられる思いになる。

 

 その時、地下ジオフロントに降り立ったエヴァ初号機は、NERVネルフ本部に直接接触していた。

「初号機の連動回路、カットされました」とマヤが報告する。

「射出信号は?」と冬月が聞く。

「プラグ側から、ロックされています」とマヤが答える。

「まさに籠城だな……」とシゲルがぼやく。

「やめろシンジくん! 自分が何をしているか考えてみろ!」

 マコトが説得を試みるが、シンジは聞く耳を持たない。

「そんなこと言って、これ以上僕を怒らせないでよ。初号機に残されているあと285秒、これだけあれば本部の半分は壊せるよ」

 シンジは初号機をNERVネルフ本部の頂点に上らせて、声を震わせていた。

「今の彼なら、やりかねませんね」

 シゲルが今の状況を見て冷静に言う。

「シンジくん! 話を聞いて! 碇司令の判断がなければ、あなたがやられていたかもしれないのよ!」

 マヤは席を立ち上がってモニターの向こうに訴えかける。

「そんなの関係ないよ!」とシンジは言う。

「だが、それが事実だ」

 マコトもモニターの方を見つめて言う。

「そんなの関係ないって言ってるでしょう! 父さんは……あいつはアスカを殺そうとしたんだ。この僕の手で……! なんで! なんで! なんでなんだよ!」

 初号機がNERVネルフ本部の最上部を踏みつける。その度に大きな揺れが発令所を襲う。

「父さんは何も分かってないんだ! 信じた僕が馬鹿だったんだ! 父さんも、大切な人を失えばいいんだ! そしたら分かるよ!」

 ゲンドウは、暴走を止めようとしないシンジの説得に見切りをつける。

「L.C.L.圧縮濃度を限界まで上げろ」

「えっ」

 マヤがゲンドウの方を見る。

「子供の駄々に付き合ってる暇はない」

 ゲンドウの指示によって、シンジの乗るコックピット内に異変が生じる。

「まだ直轄回路が残っ……うっ! ……ちくしょう……ちくしょう……ちくしょう……」

 プラグ内でわめいていたシンジは、思うように体が動かなくなって悔しがる。初号機はコントロールを失い、後ろに倒れると、そのまま本部の斜面を滑り落ちて行った。

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 シンジは自分の内面世界で、電車に乗っている風景を見ている。

「碇くん、いつもそれ、聞いてるのね」と正面に座っているレイが聞く。

「うん、これ昔父さんが使っていたものなんだ」とイヤホンをしたシンジが答える。

「綾波の眼鏡と同じだよ」と言って、幼い頃のシンジがシンジの左斜め前に現れる。

「けどもういらなくなって置いていったものなんだ」とシンジが言う。

「僕と同じだよ」と幼いシンジが言う。

「先生のところにおいてあったのを、僕がもらったんだ。耳を塞ぐと心も塞がるんだ 。嫌な世界と触れ合わなくてすむからね」

 シンジはイヤホンをしたままレイを見つめる。

「嫌な世界?」とレイが言う。

「そうさ。嫌いな父さんがいる世界。怖い使徒やエヴァがいる世界。辛いことをやらされる世界。ダミーがあれば父さんも僕がいらない世界。僕も友達も傷つく世界……。でもいいこともあったんだ、けど結局は壊れてしまう……嫌な世界さ。もう捨てるんだ。これしていると父さんが僕を嫌な世界から守ってくれると思ってたんだ。僕の勝手な思い込みさ」

 シンジの持っていた音楽プレイヤーが頭上の網棚の上に置かれる。

「碇くんは分かろうとしたの? お父さんを」とレイが聞く。

「分かろうとした」とシンジは言う。

「何もしなかったんじゃないの?」とレイが聞く。

「分かろうとしたんだよ! 悪いのは父さんだ。僕を見捨てた父さんじゃないか!」

 シンジは頭を抱えて叫ぶ。いつの間にか、レイの座っていた場所には幼いシンジが座っている。

「そうやって嫌なことからまた逃げ出してるんだ」と幼いシンジが言う。

「いいじゃないか! 嫌なことから逃げ出して、何が悪いんだよっ!」

 シンジは両手で耳を塞いで、大声で叫ぶ。

 

「はっ……!」

 シンジは、病院のベッドの上で夢から覚めた。

「またここだ……。もう嫌だ」

 シンジのベッドの周りには、NERVネルフの諜報部員らしき黒服の男たちが立っていた。

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 戦闘現場では、3号機の破片回収作業が行われていた。

『3号機の破片の回収では、全て傷付けるな……』

 3号機の巨大な骨がクレーンで引き上げられている。破壊されたエントリープラグも回収され、調査が進められていた。

 

 アスカは、なんとか一命を取り留めたものの、特殊な施設に入れられて、気が抜けない状態になっていた。

「細胞組織の侵食跡は消えたものの、使徒による精神汚染の可能性も否定できない。このまま隔離するしかないわね」

 リツコは、ガラスを隔てて置かれたアスカの延命装置を見下ろす。

「まさか、処置ってことはないですよね」とマヤが心配そうな声を上げる。

「貴重なサンプル体よ。ありえないわ」

 リツコは大量の吸殻で埋まった灰皿にタバコをねじ込む。

 

 暴走後、シンジは隔離室に拘束されていた。

「出たまえ碇シンジ君。碇司令がお会いになる」

 シンジは手錠をはめられ、司令室に連れてこられる。

「命令違反、エヴァの私的占有、稚拙な恫喝。これらは全て犯罪行為だ。何か言いたいことはあるか」

 ゲンドウは司令席に座ったまま、顔の前で手を組んでシンジを見据えていた。

「はい。僕はもうエヴァには乗りたくありません」

「そうか、ならば出て行け」

 ゲンドウは、口調を強めてはっきりと伝える。

「……」

 シンジは後悔は何もないという表情で、無言のまま出口の方を向く。

「また逃げ出すのか?」

 ゲンドウにそう言われて、シンジは出口に向いたまま立ち止まる。

「自分の願望はあらゆる犠牲を払い、自分の力で実現させるものだ。他人から与えられるものではない。シンジ、大人になれ」

「僕には、何が大人か分かりません」

 そう言ってシンジは司令室を後にする。

 シンジが去った後、ゲンドウは直ぐに初号機の運用に関する指示を現場に流す。

「私だ。第3の少年は抹消。以後初号機の運用はダミーシステムを基幹とする。バックアップは不要だ」

 

「レイ、シンジ君を引き止めなかったですね」とマヤはマコトに話しを振る。

「最近変わってきたから期待してたんだけどな。あの子達の距離感、計りかねるよ」とマコトが答える。

「しかし、これでまたパイロットは一人きりだ」とシゲルが言う。

「振り出しに戻る、ですね」

 マヤはコーヒーの入ったマグカップを両手で持って、立っているシゲルを見上げる。

 

 その時、レイは通りかかったゴミ箱で、シンジの持っていた音楽プレイヤーが捨てられているのを発見して、それを拾う。

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 シンジは荷物の詰まったバッグを抱えて、ミサトの家の玄関を出て行こうとする。

「分かってると思うけど、ネルフの登録を抹消されても監視は続くし、行動にはかなりの制限がつくから。忘れ物。鈴原君と相田君から何度も留守電が入ってる。心配してるのよ」

 そう言ってミサトは携帯をシンジに差し出す。

「別にいりません。置いてったものですから」

 シンジはミサトを見ようとしない。

「レイやアスカのことも聞かないのね。ほんとはね、私だって、人類や世界のことなんてどうだっていいのかもしれない。結果として、今こんな立場に立ってるけど、最初は死んだ父に少しでも近づきたくて、ネルフに志願しただけなの。あなたが碇司令に必要とされたくてエヴァに乗ったのと同じように……」

 玄関に見送りに来ていたペンペンが悲しそうな鳴き声を上げる。

「だから私は、あなたに自分の思いを重ねてしまった。それをあなたが重荷に感じていたのも知ってる。今あなたがエヴァに乗る目的に失望してしまったことも知ってる。けど……それでも私は……あなたに……!」

 ミサトはシンジに駆け寄って手を握ろうとする。しかし、シンジはそれを避けるようにして玄関の外に出る。

「あの日……レイは碇司令も呼んでいたの。シンジくんにお父さんと仲良くなってほしかったの。一緒に笑って欲しかったの」

 ミサトは、もうシンジの気持ちが戻ることはないかも知れないと思いながらも、なんとかやり直せる道があるのではないかと探る。

「僕はもう、誰とも笑えません」とシンジが言って、玄関のドアが閉まる。

 

 モノレールに乗り込んだシンジは、誰も乗車していない車内に一人ぽつんと座っていた。

『次は上強羅、上強羅です。お出口は、左側です』

 その時、車内の照明が赤色に変わり、緊急事態を知らせるアナウンスが流れる。

『ただいま日本政府より非常事態宣言が発令されました。緊急条例に基づき、当列車は最寄の退避ステーションに停車いたします。降車後はすみやかに指定ホールの退避用インクラインにご乗車ください』

 シンジは、そのアナウンスを聞いて、これから何が起ころうとしているのかを悟る。

「使徒だ……」

 

「へっくしょんっ。あー、さむっ」

 マリは、エヴァ搭乗ステーションに運ばれる途中で、ゴンドラに乗りながらプラグスーツに着替える。裸になったマリは、ピンク色の真新しいプラグスーツに包まれる。

「……っしょっと。さすが新型、胸もぴったりで、気持ちっイイ!」

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 同じ時、月面ではカヲルがプラグスーツに腕を通し、地球を見上げていた。

「時が来たね」

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

『総員、第一種戦闘配置』

『地対空迎撃戦、用意!』

「目標は?」

 司令席の横に立っている冬月が、シゲルに確認を取る。

「現在も進行中です。旧小田原防衛線を突破されました」

 新たに現れた使徒は、通常兵器の攻撃を真正面から突破し、目から放つ光線によって兵装ボックスを一瞬で消滅させた。ミサトはゴンドラに乗って第1発令所へ移動中に、大きな揺れに襲われて身構えていた。

「ここまで衝撃波が届くなんて、ただ事じゃないわ……」

『第4地区に直撃。損害不明』

「地表全装甲システム融解!」

 シゲルが被害状況を伝える。

「24層全ての特殊装甲が、一撃で……」

 マコトが主モニターに映る使徒の姿を見て愕然とする。冬月も同じモニターを見て「第10の使徒、最強の拒絶タイプか。予想以上の破壊力だな」と言った。

 ミサトはゴンドラに設置されている内線を使って現場へ指示を回す。

「総力戦よ。要塞都市全ての迎撃設備を突貫運用。わずかでもいい、食い止めて。エヴァ2号機!? 誰が乗っているの?」

 ミサトの乗ったゴンドラの対向車線から、エヴァ2号機を乗せた貨物車が上っていく。

『不明です。こちらからの出撃命令は出ていません!』

 ミサトの持った受話器からマコトの声が漏れる。ミサトは、高速で過ぎ去っていく貨物車を目で追って唖然とする。

 地上では、使徒に対する火力戦が展開されていた。大量のN2エヌ・ツー誘導弾を一気に使徒へ打ち込むが、全く効果を見せない。爆風で避難中の市民に火の粉が降りかかる。使徒の予想外の進行速度に、慌しさを増していく発令所。

『目標健在』

『第二波攻撃、効果なし』

「いいから、市民の避難が最優先だ!」とシゲルが電話口に叫ぶ。

N2エヌ・ツー誘導弾の第三弾を許可する! 直援に回せ!」とマコトが追撃を指示する。

 その時、発令所に到着したミサトがドアを割って駆け込んで来る。

「エヴァによる地上迎撃では間に合わないわ! ユーロに協力を要請! 2号機をジオフロントに配備して! 零号機は?」

「左腕を応急処置中! かろうじて出せます!」

 マヤがモニターを確認してミサトに答える。

「完了次第、2号機の援護に回して! 単独専行は危険だわ」

 ミサトはマコトの横に駆け寄って、コンソールに手を着いて指示を出す。

「了解」とマコトが答える。

 続いてミサトが確認を促す。

「初号機は?」

「現在、ダミーシステムで起動準備中」

 マヤの後ろからモニターを覗き込んだリツコが回答すると、ミサトは険しい表情でそれに答える。

「作業、急いで!」

 

 地下シェルターへ非難する市民を乗せたケーブルカーが、レールの上を滑り降りるように進んでいく。

「市街地の方は……一体どうなっとるんだ」

「ここはジオフロントのシェルターだ。この世で一番安全だよ」

 市民と一緒にケーブルカーに乗っていたシンジは、身を縮めて床を見つめている。

 

 発令所に警報が鳴り響く。

「目標、ジオフロント内に進入!」とシゲルが叫ぶ。

 マコトが「エヴァ2号機と会敵します!」と続ける。

 ミサトはエヴァの状況を確認する。

「2号機との通信は?」

「相互リンクがカットされています。こちらからは……」

 そう言ってマヤはミサトの方に振り返る。

「そう……一人でやりたいわけね」

 

 2号機が、ジオフロント内の地表へ到着する。マリは新しいプラグスーツの感触を確かめて、コックピット内で深呼吸する。

「いい匂い。他人の匂いのするエヴァも悪くない。第5次防衛線を早くも突破。速攻で片づけないと本部がパーじゃん!」

 そう言ってマリは、2号機の両手に装備させたハンドガンを天井に向かって乱射する。ジオフロントの天井からは、使徒が迫っていた。使徒は、まるで空から舞い降りる堕天使のように、黒いローブ状の体をなびかせて下りてくる。

「A・T・フィールドが強すぎる! こっからじゃ埒があかないじゃん!」

 マリはハンドガンを後ろに放り投げると、次の攻撃へ移行する。

「よっ! ほっ! はっ! これで行くか〜? にゃあ!」

 マリは、武器コンテナをを開くと、ダガータイプの武器を手に取って走り出す。

「おりゃ〜っ!」

 助走を付けて高く舞い上がった2号機は、使徒の頭上からダガーを突きたてて奇襲を仕掛ける。

「ゼロ距離ならばっ!」

 鉄板のように硬いA・T・フィールドにダガーを突き立てたマリは、肩のウエポンボックスを開いてニードルガンを連射する。しかし、使徒は全ての攻撃を完全に防ぎ、A・T・フィールドで2号機を遠くまで吹き飛ばしてしまう。

「いってってってぇ……うぐぅ……」

 天井から落ちてきたビルの残骸に叩きつけられた2号機は、無残な姿で足止めを食ってしまう。しかし、使徒は休む暇を与えずに第二波を放ってくる。

「……!? やばっ!」

 マリは素早い判断でバク転をして使徒の攻撃をかわす事に成功する。

「にゃろ〜、なんてやつ……」

 

 その時、発令所では初号機のダミーシステムの準備が進められていた。

『ダミーシステム、接続完了』

「コンタクト、スタート」とリツコがマヤに指示をする。

「はい!」とマヤが返事をする。

 その瞬間、警報が鳴り響きモニターが異常を知らせる内容に変わる。

「どうしたの!?

 リツコは急いで主モニターに目を向ける。

「コアユニット、ダミーを拒絶! だめです! エヴァ初号機、起動しません!」

 マヤの見つめるモニターがネガティブな情報を映し出す。

「ダミーを受け付けないとは」と冬月が言うと、司令席に座って静観していたゲンドウが立ち上がる。

「冬月、少し頼む」

 

「どっこいしょ。このままじゃ勝てないな……よしっ! 試してみっか!」

 使徒から少し間合いを取った位置に待機する2号機。マリは操縦席の上に立って拳をパンッと叩く。そして、眼鏡の縁を持ち上げながら「ヒトを捨てたエヴァの力、見せてもらうわ」と言って使徒を見据える。

「モード反転! 裏コード、ザ・ビースト!」

 マリがそう叫んだ瞬間、エントリープラグ内のモニターが落ちて赤く染まる。2号機の肩に装備されていた拘束具が木っ端微塵に吹き飛び、そこから二本の突起物が出現する。

「我慢してよ……エヴァ2号機。私も……我慢する……」

 操縦席の上に立ったマリが前かがみになると同時に、2号機も同じ姿勢になって背中から突起物を出現させる。背中に左右五本ずつ、計十本と、腰の辺りからさらに四本の突起物を出現させた2号機は、この後驚異的な能力を発揮することになる。

「エヴァにこんな機能が……」

 主モニターを見つめるマコトが驚く。マヤは内部の状況を報告する。

「リミッター、外されていきます! 全て規格外です! プラグ内、モニター不能! ですが……」

「恐らくプラグ深度はマイナス値。汚染区域突入もいとわないとわね」

 リツコはマヤのモニターに映し出された数値を見て、このイレギュラーなパイロットがやろうとしていることを見届けようとする。

「だめです! 危険すぎます!」

 マヤは想定の範囲内を超えた数値を見て警鐘を鳴らす。

 ミサトは主モニターに映る2号機の姿をじっと見据えている。

 マリは拳に力を入れてぐっと身を縮めると、全てを解放させるようにして目を見開く。

「身を……捨ててこそ……浮かぶ瀬も……あれっ!」

 マリの叫びと共に咆哮を放った2号機は、アンビリカルケーブルを引きちぎる勢いで使徒へと突入していく。恐ろしいほどの脚力で宙に舞った2号機は、使徒の放ったA・T・フィールドを突き破って使徒の懐に迫る。しかし、使徒は分厚い鉄板のようなA・T・フィールドを追撃させて自分の間合いを死守しようとする。2号機は一旦跳ね返されるが、再度助走を付けて飛び掛ると、強化ガラスを一枚一枚割っていくようにして、A・T・フィールドに殴りかかっていく。

「ぬぁーっ! おるぁーっ!」

 マリは半狂乱状態でA・T・フィールドを叩き続ける。しかし、使徒は黙って見ている訳ではなかった。帯状の腕をドラム缶状に丸めると、それを勢いよく伸ばして2号機を切りつける。そして、強力な刃物となって襲い掛かった腕を振り上げた途端に、2号機の左腕は切断されて湖に落下する。2号機は、切り落とされた左腕と切りつけられた右腹部から大量に出血する。

「うぅ……うぅうっ……」

 マリは損傷したところを手で押さえながら呻き声を上げる。

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーっ!」

 マリは左腕を押さえながら、丸腰で使徒に突っ込んでいく。雄叫びを上げながら走る2号機。しかし、使徒は正面から狙い済ましたかのように、2号機の顔面目掛けて帯状の腕を突き出す。2号機は頭部を粉砕されて後ろに倒れこむ。その光景を見ていたミサトは拳を硬く握り締める。

「エヴァの獣化第2形態。ヒトを捨て、闘争に特化させても勝てない……これが私たちの限界なの?」

 ミサトが主モニターを見ながら立ち尽くす。

 その時、零号機がせり上がるリフトに乗ってジオフロント地上部へ現れる。その腕にはN2エヌ・ツー誘導弾が抱え込まれていた。

 その光景を目の当たりにしたミサトが叫ぶ。

「零号機!? ライフルも持たずに!」

「まさか!」

 リツコはレイが何をしようとしているのかを悟る。

「レイ! やめなさいっ! レイ!」

 ミサトは必死にモニターに向かって叫ぶ。

 零号機は背後から使徒に近づいて至近距離まで間合いを詰めた。それに気づいた使徒は振り向きざまにA・T・フィールドを展開する。使徒のA・T・フィールドにN2エヌ・ツー誘導弾を突き立てたレイは、ミサイル後部のジェット噴射を使って推進力を付ける。

「A・T・フィールド、全開!」

 N2エヌ・ツー誘導弾の先端が使徒のA・T・フィールドを侵食し始める。

「碇君が、もう、エヴァに乗らなくても、いいようにする! だからっ!」

 レイの脚には、シンジの使っていた音楽プレイヤーが巻かれていた。レイは、本当にシンジの事を想っていたのだった。

 しかし、使徒の強力なA・T・フィールドによって、零号機の攻撃は押され始める。

「うっ!」

 レイはまだ完治していない腕の痛みに耐える。

「エヴァ単機では、あのA・T・フィールドを破れない!」

 ミサトは零号機と使徒の攻防を見て希望を失いかける。

 その時、倒れていた2号機が息を吹き返し、使徒のA・T・フィールドに食い付き始める。2号機の顔はすでに半分無くなっていた。それでも、2号機は飢えた獣のようにA・T・フィールドへ食らい付いて行く。

「2号機……最後の、仕事よっ! あと……、一枚いぃぃぃっ!」

 マリは残る力を振り絞って2号機を動かし、最後のA・T・フィールドを食い破る。その瞬間に零号機のN2エヌ・ツー誘導弾が使徒の体に到達する。しかし、使徒はコアにシールドを張って直撃を避ける。零号機は2号機を後ろへ投げ飛ばして爆風から遠ざけようとする。

「逃げて! 2号機の人!」

「は……!」

 マリは通信から聞こえたその声を聞いて言葉を失う。

「ありがとう」

 レイがそう言い終わった直後、巨大な爆発が起こり、辺りは光に包まれる。轟音と共にNERVネルフ本部にも爆発の衝撃が伝わってくる。真っ白になった主モニターを見つめる一同。

「零号機は……?」

 マコトが状況を見守る。

 爆煙が晴れて、徐々に景色が見え始める。まず姿を現したのは、墨のように黒く焦げた零号機。そして、その奥に佇むのは、全くダメージを受けていない使徒の姿だった。

 

『当シェルターは、危険区域に指定されました。速やかに安全区域に退避してください。繰り返します。当シェルターは――』

 シンジは薄暗いシェルターの中で膝を抱えて座っていた。繰り返されるアナウンスを聞きながら、ただただ何もできない自分と対峙しているようでもあった。

 そこに、爆発で吹き飛ばされた2号機が追突する。鉄と鉄がぶつかる凄まじい騒音が鳴り響き、シェルターの壁を突き破って2号機が現れる。シンジは、いつの間にか大量の血を流して倒れている2号機の正面に座っていた。

「……いってってって……死んじゃうとこだったにゃー……。あれ? なんでこんなとこにいんの? 一機足りないと思ったら、そういうことか……」

 2号機の外部音声からマリの声が聞こえる。

「僕は……僕はもう乗らないって決めたんだ……」

 シンジは2号機から目を逸らして床を見る。そこには、2号機の血が床を伝って流れていくのが見えた。

「エヴァに乗るかどうかなんて、そんなことで悩むやつもいるんだ」とマリは言った。

 シンジの足元にまで2号機の血が伝ってくる。

「なら、早く逃げちゃえばいいのに。ほら、手伝うからさ」

 マリはそう言って2号機の手をシンジの方へ伸ばす。その衝撃で壁の瓦礫が崩壊してシンジを襲う。

「うわぁ!」

 シンジは2号機の手に握られて助かるが、その中でうずくまって現実から逃げようとする。

「乗らないって決めたんだ……乗らないって決めたんだ、乗らないって決めたんだ……」

「だけどなあ、そうやっていじけてたって、なんにも楽しいことないよ」

 マリは2号機の手を広げてシンジをジオフロントの焼け野原へと晒す。シンジはその光景を目の当たりにして言葉を失う。

 仮面のような顔の下から長い器官を伸ばして、使徒が活動を停止させた零号機に食らい付く。たったの一口で零号機を丸呑みにした使徒は、零号機の膝から下だけを残して食いちぎってしまう。零号機を飲み込んだ使徒は、頭部の骨だけを吐き出すと、帯状の体の下から女性の体のようなものを形成し始める。

「まさか、使徒がエヴァを捕食するなんて……あり得ないわ!」

 ミサトは使徒を映し出したモニターの映像を凝視する。

「変です、目標の識別信号が零号機に切り替わります!」

 マヤは自分のモニターを見て驚愕する。

「やられた! これで奴がドグマに侵入しても自爆しない! リリスに苦もなく辿り着けるわ!」

 ミサトはこれから起ころうとしている事態を危惧する。

「零号機と……融合してる。パイロットごと吸収してしまったんだ。キミも死んじゃうよ? 早く逃げなよぉ」

 マリがシンジの背中に語りかける。シンジは2号機の手に乗ったまま、自分の手に付いた血を見つめていた。すると、シンジはなにかを決心したように、2号機の手から飛び降りる。マリがシンジの背中を見届けた直後にエントリープラグのモニターが切れる。

「ありゃ、行っちゃったか」と言ってマリは肩を落とす。

 そして、2号機の活動限界が訪れる。

 使徒がNERVネルフ本部の施設へ攻撃を開始する。爆発の衝撃に巻き込まれたシンジは、吹き飛ばされて地面に転がる。それでも直ぐに起き上がったシンジは、何かに向かって一心不乱に走り始めた。

 

『本部地上施設、消滅!』

「第3基部に直撃!」

「最終装甲板、融解!」

 使徒の攻撃による被害状況を、オペレーターが次々と報告する。

「まずい! メインシャフトが丸見えだわ!」

 それを聞いたミサトが焦りを見せる。

「初号機はまだなの?」

 リツコがマヤの後ろから催促を入れる。

 その頃、地下のケージでは初号機のダミーシステム拒絶によって作業が難航していた。

『プラグ位置、固定不能。ダミーシステム、接続不可能。だめです、リセットが効きません』

「続けろ、もう一度308からやり直せ」

 ゲンドウはオペレーションルームから初号機を見下ろして指示を出す。

『リスト308、チェック開始』

「なぜだ……なぜ私を拒絶する、ユイ!」

 ゲンドウは初号機に向かって語りかける。その時、初号機のケージ内からシンジの声が聞こえる。

「乗せてください! 僕を……僕を、この初号機に乗せてください!」

 ゲンドウは息を切らして初号機の前に立っているシンジを見据える。シンジはゲンドウの姿を目の当たりにして、一瞬躊躇いを見せる。

「なぜここにいる」

 シンジは拳を握ってゲンドウを見つめると、表情を引き締めてその一歩を踏み出す。

「父さん!」

 シンジの意思に圧倒されて、ゲンドウが後ずさりをする。

「……!」

 そしてシンジは叫ぶ。

「僕は、エヴァンゲリオン初号機パイロット、碇シンジです!」

 

 その間、使徒はNERVネルフ地下への進行を開始していた。

「目標は、ターミナルドグマ第7層を降下中!」

 シゲルが緊急を知らせるモニターを睨みつける。

「ここに来るわ! 非戦闘員、退避!」

 ミサトは事態を察知して素早く指示を出す。

『非戦闘員は緊急退避! 繰り返す、非戦闘員は緊急退避!』

 オペレーターが緊急のアナウンスを入れた直後、主モニターを突き破って発令所に使徒が侵入する。ミサトは歯を食いしばって十字架のペンダントを握りしめながら、迫り来る使徒を見つめる。

 使徒は目を光らせて至近距離から光線を放とうとする。NERVネルフ本部は絶対絶命の危機を迎えた。

 次の瞬間、オペレーター席の右手にある壁を突き破って、エヴァ初号機が現れる。

「エヴァ初号機!?

 初号機が使徒の顔面に殴りかかる。ミサトは初号機の顔を見て何かを感じ取る。

「……シンジくん!」

 初号機は使徒に体当たりを仕掛け、そのまま発令所の外へ押し返して行く。

「うおぉぉぉーーっ!」

 使徒を押し倒して壁を突き破った初号機は、馬乗りになって殴りかかる。しかし、使徒は目から光線を照射して初号機の左腕を吹き飛ばす。ゲンドウは目の前で繰り広げられる戦闘をデッキで見守る。初号機の切断された腕から噴出した血がゲンドウに降りかかる。しかし、ゲンドウは全く動じずに初号機の姿を、シンジの戦いを凝視する。

「うおぁうぉぉおぉ!」

 シンジは叫び声を上げながら、使徒を抱えて射出リフトまで押し出して行く。

「ミサトさん!」とシンジが叫ぶ。

「固定ロック、全部はずして!」

 ミサトがその状況に素早く対応する。

 シンジは、射出ボタンを蹴って強制的にリフトを上昇させる。初号機は、使徒を引き連れたままジオフロントに浮上し、本部の危機を回避させることに成功する。リフトの反動で空中に投げ出された初号機は、そのまま使徒を地面に叩きつけて、残された右腕でコアに殴りかかる。しかし、シンジがコアを守っている帯状の部位を引き剥がそうとした時、初号機の活動限界が訪れて動きを止めてしまう。

「エネルギーが切れた!」

 プラグ内が暗くなり焦りを見せるシンジ。

「初号機、活動限界です! 予備も動きません!」

 マヤが初号機のステータスを確認する。

「シンジくん……!」

 ミサトはシンジの身を案ずる。

 使徒は動かなくなった初号機に対して、2号機の時と同じように切断攻撃を仕掛ける。初号機は、帯状の腕に貫かれて空高く持ち上げられた。ミサトたちは、走って本部の外に出る。

「シンジくん!」

 使徒は、高く持ち上げた初号機を地面に叩きつけて帯状の腕を引き抜いた。それと同時に初号機の傷口から大量の血が噴出す。初号機は完全に沈黙したかに見えた。

 

「綾波を……返せ!」

 

 怒りに覚醒したシンジは目を赤く光らせて使徒を睨みつける。それに共鳴するように初号機もまた、目に光を取り戻していく。

「動いてる……活動限界のはずなのに……」

 マヤは初号機を見つめて唖然とする。その目の前でゆっくりと起き上がる初号機。

「暴走……?」とミサトがつぶやく。

「わからない……一体なにが、初号機に起こっているのか……」

 リツコでさえ、この想定外の事態にただ驚くことしかできないでいた。

 使徒は攻撃を再開させ、帯状の腕を勢いよく初号機に突き立てる。しかし、初号機は強力なA・T・フィールドで攻撃を寄せ付けない。次に、使徒は間合いを詰めて至近距離で光線を発射。しかし、初号機のA・T・フィールドによって完全に無効化させられる。

 初号機は失った左手を自ら再生させて完全体を取り戻すと、A・T・フィールドを使って使徒を弾き飛ばしてしまう。さらに、初号機は目から強力な光線を放ち、使徒のA・T・フィールドをものともせずにダメージを負わせる。初号機は、倒れ込んだ使徒の方へゆっくりと歩いて行く。その頭上に天使のような光の輪が発生する。

「エヴァにこんな力が……」

 ミサトは初号機の姿を見て唖然とする。

「初号機がヒトの域を超えている……」とリツコが言う。

「プラグ深度、180をオーバー! もう危険です!」

 マヤがノートパソコンに映し出されたステータスを見て叫ぶ。それを聞いたリツコが初号機に向かって声を上げる。

「やめなさい! シンジ君! ヒトに戻れなくなる!」

「僕がどうなったっていい。世界がどうなったっていい。だけど綾波は……せめて綾波だけは、絶対助ける!」

 初号機の放った光線が使徒のA・T・フィールドを切断して、使徒のコアを守っていたシールドを焼き切る。

「行きなさいシンジ君!」とミサトが叫ぶ。

「ミサト!?

 リツコは驚いてミサトを見る。

「誰かのためじゃない! あなた自身の願いのためにっ!」

 初号機は使徒に覆いかぶさってコアに手を伸ばす。強烈な力によって侵入を拒むコアに向かってシンジが叫ぶ。

「綾波、どこだ!」

「ダメなの。もう、私は、ここでしか生きられないの……」

 レイの声が聞こえる。

「綾波!」

「いいの、碇君。私が消えても代わりはいるもの」

 ――代わりはいるもの。

 コアの表面に沢山の小さなアヤナミが浮かび上がる。

「違う! 綾波は綾波しかいない!」

 ――えっ?

 小さなアヤナミが初号機を見る。

「だから今、助ける!」

 

 ――BGM「翼をください」

 

 初号機は使徒のコアに手をかざしたまま空へ浮かんでいく。頭上にあった光の輪は、赤いブラックホールのように変化し、徐々に大きくなっていく。

「そんな……形状制御のリミッターが消えています! 解析不能!」

 マヤはモニターを見て驚きの声を上げる。

「人の域に留めておいたエヴァが本来の姿を取り戻していく。人のかけた呪縛を解いて、人を超えた神に近い存在へと変わっていく。天と地と万物を紡ぎ、相補性の巨大なうねりの中で、自らをエネルギーの凝縮体に変身させているんだわ。純粋に人の願いを叶える、ただそれだけのために!」

 リツコは目の前で起こっている現象を、できる限り言語化しようとする。ミサトは、今まさに初号機が起こしている現象を見て言葉を失う。

「うおぉぉぉーーーーーーーっ!」

 シンジは光のエネルギーに包まれながら、全力で使徒のコアに手を伸ばして行く。初号機は両手をかざして全エネルギーをコアに集中させる。すると、遂にコアの表面が解放され、深部への道が開かれる。シンジは操縦席を飛び出してエントリープラグの深部へと這って行く。

「うぅ……くっ……くっ……」

 意識の向こう側にレイの姿が見える。

「……綾波ーーっ!」

 レイは何も身に着けていない姿で膝を抱えて丸くなっていた。ただ何も無い空間で一人きりで浮かんでいた。

「ん……」

 レイは、暗闇の中で遠くから聞こえる声を聞いて目を覚ます。

「あっ……」

 レイは、深い海の底から海面を見上げた深海魚のように、光の中からシンジが下りてくる姿を目にする。

「綾波ぃーっ!」

 シンジはレイのいる元へ必死に潜っていこうとする。少しずつ、少しずつ這うようにして深い場所まで下りて行く。レイを包む闇の海に手を差し込んで、必死に名前を叫ぶ。

「綾波ぃーっ! 手をっ!」

 シンジは闇の世界に踏み込んでいく、腕を伸ばし、顔を入れ、レイのいる場所へ少しでも近づくために。シンジの意識はそこで焼かれるような痛みに晒される。それでもシンジは手を伸ばし、レイに向かって声を上げる。

「来いっ!」

 レイはシンジの手につかまる。シンジはレイの手を掴むと、全身全霊を込めて闇から引き上げる。レイの手にはシンジの音楽プレイヤーが握られていた。初号機が使徒のコアから手を引き抜く。使徒のコアは分解し、一つの形に収束する。コアの結晶はレイの姿に変わり、初号機と共に天空へと上って行く。

 

「数が揃わぬうちに初号機をトリガーとするとは……碇司令、ゼーレが黙っちゃいませんよ」

 加持は密かにジオフロント上でその光景を目撃していた。一方別の場所では、冬月とゲンドウが事の成り行きを見守っていた。

「やはり、あの二人で初号機の覚醒は成ったな」

 冬月が空高くへと上っていく初号機を見上げながらゲンドウに言う。

「ああ。我々の計画に辿り着くまで、あと少しだ」

 ゲンドウはその目でしっかりと初号機のある方を見つめていた。

 

 シンジとレイは光に包まれて抱き合っていた。

「綾波、父さんのこと、ありがとう……」

「ごめんなさい。何も出来なかった……」

「いいんだ、もう。これでいいんだ……」

 シンジは光の中で、レイに全てを委ねる。

 

 マリは活動を停止させた2号機の外に出て初号機を見上げる。

「……おっ、なるほど。都合のいい奴ね。やっぱ匂いが違うからかなぁ」

 マリは割れた眼鏡を通してその光景を見つめる。世界が変わろうとする、その瞬間を。

「ヘックション!」

 

 かつて使徒のコアだったレイの姿をしたものが、初号機に取り込まれて行く。初号機の上空に渦巻く赤いブラックホールが、全ての物を飲み込んでいく。初号機は赤い光に包まれて宙に浮かぶ。

「この世界のことわりを超えた新たな生命の誕生。代償として、古の生命は滅びる……」

 リツコは初号機を見上げて、これから起ころうとしていることを暗示する。

「翼!? 15年前と同じ!」

 ミサトは十字架の首飾りを握り締めて過去の記憶を呼び起こす。

「そう……セカンドインパクトの続き。サードインパクトが始まる。世界が終わるのよ」

 リツコが言った。それが全ての始まりであるかのように。


 エンディング曲「Beautiful World -PLANiTb Acoustica Mix-」


 世界の終焉が近づいたと思われた時、空から巨大な槍が飛来して初号機に突き刺さった。初号機の頭上にあった赤いブラックホールが晴れていき、そして空に静かな夜と満月が戻ってゆく。

「……一体なにが!?

 突然の出来事を目にして、ミサトがかすれた声を上げた。そこに現れたのは、月面から飛来したエヴァ〝Mark.06〟の姿だった。

「さぁ、約束の時だ。碇シンジ君」

 鈍色の機体を操縦する渚カヲルが、ゆっくりと初号機の上に降臨する。満月を背にして浮かぶ〝Mark.06〟の頭上には、天使の象徴にも似た光の輪が宿っていた。

「今度こそ君だけは、幸せにしてみせるよ」

 槍は初号機を串刺しにした状態で、地面に突き立っていた。渚カヲルは、その光景を見下ろしながら、不穏な様相でつぶやいた。

 ――つづく。


 ――予告。

 レイとシンジを取り込んだまま凍結されるエヴァ初号機。

 廃棄される要塞都市。

 幽閉されるNERVネルフ関係者。

 ドグマへと投下されるエヴァ6号機。

 胎動するエヴァ8号機とそのパイロット。

 遂に集う、運命を仕組まれた子供たち。

 果たして、生きることを望む人々の物語は、どこへ続くのか。

 次回、ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q。

 さぁて、この次も、サービスサビスーぅ!


映像の書き起こし部分に関しては著者の独自の解釈を含みます。よって、厳密に公式の意図を反映したものではない可能性があることをご留意ください。また、作品に登場する直接のセリフ等は全て©カラーに帰属します。

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