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『Air/まごころを、君に - The End of Evangelion』新世紀エヴァンゲリオン劇場版のストーリーとセリフ書き起こし

新世紀エヴァンゲリオン劇場版『Air/まごころを、君に - The End of Evangelion』タイトル
©カラー/1995-2014 GAINAX

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 太陽が山のふもとへと帰る頃。ブランコが揺れる風景。懐かしい歌が聞こえる。

「そうだ……。チェロを始めたときと同じだ。ここに来たら、何かあると思ってた」

 幼い頃のシンジ。

「シンジくんもやりなよ!」

「頑張って完成させようよ! お城」

 児童の声が聞こえる。

「……うん!」

 シンジは砂の城を手で固める。

 ブランコが揺れる景色。公園という舞台。シンジの隣で、人形が砂の城を見つめている。

「あ、ママだ!」

「帰らなきゃ! じゃあねぇー!」

 児童がそう言うと、舞台の向こうにパイプ椅子に座っている女性が現れる。

「ママー!」

 シンジの元から去っていく人形たち。舞台の切れ目を見に行ったシンジの足元には、高く組まれたパイプの土台が見える。もう一度砂場に戻って城を固めるシンジ。泣き出しそうになるのを必死でこらえる。

 城が完成する。シンジは無言で城の前に立って、それを見下ろす。その城は、四つの面で出来た平坦な作りで、まるでピラミッドのような形をしている。シンジは、その城を踏み付けて壊していく。

「えい! えい! えぃ!」

 幼いシンジは、砂の城を何度も何度も蹴って壊していく。城が崩れてただの砂の山に戻ると、シンジは蹴ることを止めて立ち尽くす。しかし、シンジはまた砂をかき集めて城を作り始める。

「つぁーもぉーーーっ! アンタ見てると……イライラすんのよぉっ!」

 感情を露にしたアスカが目を見開く。

「自分みたいで?」

 裸で仰向けになっているシンジがつぶやく。

「ママーッ!」

 幼いアスカが泣きじゃくる。

「マ……マ……」

 眠っているアスカが寝言を漏らす。

「ママ……」

 膝を抱えたシンジがつぶやく。

 シンジは血のついたミサトのペンダントを眺める。

「結局、シンジ君の母親にはなれなかったわね」

 ミサトの声がする。

 かつての加持の部屋。

「ねえ……ねえ……しよう?」

「またかぁ、今日は学校で友達と会うんじゃなかったっけ?」

「ん? あーリツコね。いいわよ……まだ時間あるし」

 甘い声で加持を誘うミサト。

「もう一週間だぞ。……ここでゴロゴロし始めて」

「だんだんね。コツがつかめてきたの。だからぁー。ねェ」

「っっん」

「多分ねぇー。自分がここにいることを確認するために……こういうことするの」

 そこには、二人の行為を傍らで傍観するシンジの姿があった。

「バッカみたい! ただ寂しい大人が慰めあってるだけじゃないの」

 アスカの声が聞こえる。

「身体だけでも、必要とされてるものね」

 リツコの声が聞こえる。

「自分が求められる感じがして、嬉しいのよ」

 ミサトの声が聞こえる。

「イージーに自分にも価値があるんだって思えるものねぇ。それって」

 アスカの声が聞こえる。

「これが……。こんなことしてるのがミサトさん?」

 シンジは顔をしかめて視線を鋭くする。その手には、ミサトのペンダントが置かれている。

「そうよォ。これもワタシ。お互いに溶け合う心が写し出す、シンジくんの知らない私。本当のことは結構、痛みを伴うものよ。それに耐えなきゃね」

「あーあっ。私も大人になったらミサトみたいなコト……するのかなぁ?」

 アスカがぶっきらぼうに言ってみせる。

「ねぇ。キスしようか?」

 いつかの二人きりの部屋のアスカが、シンジに向かって言った言葉。

 扉の影から姿を現したミサトが「ダメっ!」と言う。

「それとも怖い?」

 アスカは椅子の背もたれに肘をついてシンジに聞く。

 服を着替えながら「子供のするもんじゃないわ」とミサトが言う。

「じゃ、いくわよ」

 アスカはシンジの方へ歩いて近づいて行く。

「何も判ってないくせに、私のそばに来ないで」

 シンジの正面に立ったアスカは、表情を強張らせてシンジに言う。

「判ってるよ……」

 シンジは自信の無い声をもらす。

「判ってないわよ……バカ!」

 そう言って、アスカはシンジの足を蹴飛ばす。

「あんた私のこと分かってるつもりなの? 救ってやれると思ってるの? それこそ傲慢な思い上がりよ! 判るはずないわ!」

 アスカは、声を濁らせてシンジを罵倒する。

「判るはずないよ。アスカ何も言わないもの。何も言わない。何も話さないくせに。判ってくれなんて、無理だよ!」

 シンジは内面で反論する。

「碇くんは判ろうとしたの?」

 レイが尋ねる。

「判ろうとした」とシンジは言う。

「バーカ! 知ってんのよ、アンタは私をオカズにしてること。いつもみたくやってみなさいよ。ここで観ててあげるから。あんたが、全部私のものにならないなら。私……何もいらない」

 電車の中で、アスカはシンジの座った椅子に足を乗せて問い詰める。

「だったら僕にやさしくしてよ!」

 シンジは自信の無い表情でアスカを見上げる。

「やさしくしてるわよ」

 ミサト、アスカ、レイ、三人の姿が重なる。

「ウソだ! 笑った顔でごまかしてるだけだ。曖昧なままにしておきたいだけなんだ!」

 シンジが自分の考えに篭ろうとする。

「本当のことは皆を傷つけるから。それは、とてもとてもツライから」

 レイの声が聞こえる。

「曖昧なものは……僕を追いつめるだけなのに」

「その場しのぎね」

 レイが感情の入っていない口調で答える。

「このままじゃ怖いんだ。いつまた僕がいらなくなるのかも知れないんだ。ザワザワするんだ……落ち着かないんだ……声を聞かせてよ! 僕の相手をしてよ! 僕に構ってよ!」

 塞ぎこむシンジの後ろに、アスカ、レイ、ミサトが立っている。シンジは、自分が言い放った後の無言の空気に気づいて、とっさに振り返る。

 ミサトの家のキッチンで、アスカがテーブルの上に突っ伏して落ち込んでいる。

「何か役に立ちたいんだ。ずっと一緒にいたいんだ」

 シンジは後ろから回り込んでアスカに近づく。

「じゃあ、何もしないで。もうそばに来ないで。あんた私を傷つけるだけだもの」

「あ、アスカ助けてよ……。ねぇ、アスカじゃなきゃダメなんだ」

 そう言ってシンジはアスカに言い寄る。

「ウソね」

 アスカがシンジを睨みつける。

「あんた、誰でもいいんでしょ! ミサトもファーストも怖いから、お父さんもお母さんも怖いから! 私に逃げてるだけじゃないの!」

 アスカは、椅子から立ち上がるとシンジに詰め寄って追い掛け回す。

「助けてよ……」

 アスカの気迫に負けて、シンジは後ずさりする。

「それが一番楽でキズつかないもの!」

 アスカは鋭い目つきで見据えながらシンジの後を追う。

「ねぇ、僕を助けてよ」

 シンジは困惑した表情で助けを求める。

「ホントに他人を好きになったことないのよ!」

 アスカは、大声を上げてシンジの胸を突き飛ばす。その反動で、シンジはコーヒーメーカーを巻き込んで倒れる。コーヒーが床に飛び散り湯気が吹き上がる。ペンペンは物陰からその様子を見守っている。

「自分しかここにいないのよ。その自分も好きだって感じたことないのよ」

 床に転がったシンジが身を縮める。

「哀れね」

 アスカは呆れた表情でシンジを見下ろす。

「たすけてよ……。ねぇ……。誰か僕を……お願いだから僕を助けて」

 シンジは力なくうなだれたまま、ゆっくりと立ち上がる。

「助けてよ……。助けてよ……。僕を、助けてよォ!」

 シンジはテーブルに手を掛けるとひっくり返して暴れ始める。家じゅうに大きな音が響いてペンペンが驚く。

「一人にしないで!」

 シンジは椅子を投げ飛ばして叫ぶ。

「僕を見捨てないで! 僕を殺さないで!」

 両手で椅子持ち上げて床に叩き付ける。

「……はぁ……はぁ」

 シンジは肩で息を切らせて膝をつく。

「イ・ヤ」

 アスカは冷たい目でシンジを見下ろす。

 突然、シンジは逆上すると、アスカの首に手を掛ける。そして、力を込めて絞め上げる。

 レイの首を絞める赤木ナオコ。幼いころのシンジが描いた絵。様々な映像が、走馬灯のように駆け巡る。

「誰も判ってくれないんだ……」とシンジが言う。

「何も判っていなかったのね」とレイは言う。

「イヤな事は何もない、揺らぎのない世界だと思っていた……」とシンジが言う。

「他人も自分と同じだと、一人で思い込んでいたのね」とレイは言う。

「裏切ったな! 僕の気持ちを裏切ったんだ」とシンジが言う。

「最初から自分の勘違い。勝手な思い込みにすぎないのに」とレイは言う。

「みんな僕をいらないんだ……。だから、みんな死んじゃえ!」とシンジが言う。

「でも。その手は何のためにあるの?」とレイは言う。

「僕がいても、いなくても、誰も同じなんだ。何も変わらない。だからみんな死んじゃえ」とシンジが言う。

「でも。その心は何のためにあるの?」とレイは言う。

「むしろ、いないほうがいいんだ。だから、僕も死んじゃえ!」とシンジが言う。

「では、なぜここにいるの?」とレイは言う。

 シンジは不安そうな声色で伺う。

「……ここにいてもいいの?」

 (無言)

「ひっ……ひっ…………うわぁぁぁぁぁぁーーーーーーっっっ!!」

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