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『Air/まごころを、君に - The End of Evangelion』新世紀エヴァンゲリオン劇場版のストーリーとセリフ書き起こし

新世紀エヴァンゲリオン劇場版『Air/まごころを、君に - The End of Evangelion』タイトル
©カラー/1995-2014 GAINAX

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 ターミナルドグマで、ゲンドウはリリスを背にして無言で立っているレイに語りかける。

「アダムは、すでに私とともにある。ユイと再び遭うには、これしかない。アダムとリリスの、禁じられた融合だけだ」

 レイの左腕がもげ落ちて地面に転がる。

「時間がない。A・T・フィールドがお前の形を保てなくなる。始めるぞ……レイ」

 ゲンドウは手袋を外して握り締めている。

「A・T・フィールドを、心の壁を解き放て。欠けた心の補完。不要な身体を捨て、全ての魂を今一つに。そして、ユイの元へ行こう」

 レイがゆっくりと目を閉じる。ゲンドウが右手をレイの胸へと運ぶ。レイの白い乳房にゲンドウの手が触れる。レイは一瞬苦しそうに声を出す。ゲンドウは、そのまま手をレイの中に押し込んで行く。すると、ゲンドウの手は、レイの胸にめり込むようにして入っていく。ゲンドウは、レイの胸に手首まで埋まった自分の手を、ゆっくりと下腹部の方へ下ろして行く。

「うっ」

 レイは苦しそうな表情でうめき声を上げる。


 第26話

 まごころを、君に


 暗い荒野と化したジオフロントに突風が吹き荒れる。その中心に、光の羽を宿した初号機が佇む。シンジは初号機のエントリープラグの中に座っている。そして、覚悟を決めて顔を上げる。

「アスカ!」

 しかし、シンジの目に飛び込んできたのは、量産機に食いちぎられて無残な肉塊に成り果てた弐号機の姿だった。むき出しになった脊髄、飛び出した眼球、はみ出した内臓、頭部からグロテスクな色の泡を吹き出した弐号機は、量産機に運ばれて空中を彷徨う。その壮絶な光景を目の当たりにしたシンジは発狂する。

「うわぁぁぁーーーっ! あぁぁぁーっ! うわぁぁぁぁぁぁーーーーーー!」

「碇くん!」

 レイが目を見開く。

「うわぁぁぁーーー!」

 絶叫するシンジに共鳴するように、初号機は背中の装甲を自力で破壊していく。空中に浮かび上がる初号機。そして、初号機を中心にして光の十字架が発生する。

 宇宙空間――。

 月に刺さっていたロンギヌスの槍が、自然に月の大地から抜け、急加速して飛び出して行く。

「大気圏外より、高速接近中の物体あり」

 異常を察知する戦自隊員。

「なんだとぉ?」

 隊員が目を向けた先に、光を放って飛来する物体を発見する。

「いかん! ロンギヌスの槍か?」

 第2発令所で観測を続けていた冬月も事態を察知する。

 とてつもないスピードで月から飛来してきたロンギヌスの槍が、初号機の喉元寸前で停止する。空中に浮かんだ初号機は、上げた顎にロンギヌスの槍の柄の先端を突き立てられた状態で静止している。コックピットのシンジは、下を向いたまま動かない。


 ゼーレの部屋。暗闇に浮かび上がるモノリスがシナリオの糸を引いていた。

「遂に我等の願いが始まる」

 キールは、そこに集まった面々に対して告げる。

「ロンギヌスの槍もオリジナルがその手に返った」

 モノリス[04]が発言する。

「いささか数が足りぬが、やむを得まい」

 モノリス[09]が後に続くと、弧を描くように並んでいたモノリス全員が合唱する。

「エヴァシリーズを本来の姿に。我等人類に福音をもたらす真の姿に。等しき死と祈りをもって、人々を真の姿に」

「それは魂の安らぎでもある。では儀式を始めよう」

 合唱が終わると、キールがシナリオの締めくくりに入ることを宣言する。


 飛行中の量産機のうちの一体が、抱えていた弐号機の残骸を放り投げて地面に捨てる。そして、手に持っていた槍状の武器を長く変化させると、先端を初号機の手に突き刺さした。もう一体が槍を長く伸ばして初号機の両手を塞ぐと、残りの七対は、初号機の光の羽に次々と食いついていく。十字架にはりつけになった状態で固定された初号機は、そのまま空高くへと運ばれていく。

 銃撃戦を乗り越えた第2発令所では、マコトとシゲルがコンソールに戻っていた。

「エヴァ初号機、拘引されていきます」

「高度1万2千! 更に上昇中!」

「ゼーレめ。初号機を依代とするつもりか?」

 後ろから歩み寄った冬月が組織のシナリオを推測する。

 空高く雲の上まで運ばれた初号機。すると、初号機に群がっていた量産機が一斉に離れて行く。初号機は両目の光を消灯させる。

「はぁ……はぁ……はぁ」

 シンジは、両手の平の上に現れた聖痕を見つめて息を乱していた。


 ゼーレの部屋。

「エヴァ初号機に聖痕が刻まれた」

 キールがシナリオの進行を告げる。

「今こそ衷心の木の復活を」

 一同が声を揃える。

「我等が下僕エヴァシリーズは、皆、この時のために」

 生身の姿を現したキールが宣言する。


 光を宿して虹色の円を作り出す量産機。初号機を中心にして、量産機の9体は空中で何かの図形のような編隊を組む。

「エヴァシリーズ、S2エス・ツー機関を解放」

 シゲルはなんとか敵の情報を集めようとする。

「次元測定値が反転。マイナスを示しています。観測不能! 数値化できません」

 マコトはモニターに映し出される英数字の羅列に翻弄される。

「アンチA・T・フィールドか」

 冬月はゼーレがこれから何をやろうとしているのか察知し、表情を曇らせる。

 空中にはりつけにされた初号機、光の十字架、編隊を組んだ量産機がまとう光の円。それらが組み合わさり、上空にセフィロトの樹が描かれて行く。

「全ての現象が15年前と酷似してる。じゃあ、これってやっぱり……サードインパクトの前兆なの?」

 コンソールの下に潜ったままのマヤは、ノートパソコンで二つのデータを比較していた。

S2エス・ツー機関限界」

「これ以上はもう通常の引力では救出なりません」

 上空の光を見て慌しさを増す戦自隊員たち。

「作戦は、失敗だったな」

 戦自隊の司令官が空を見つめながら諦めたような表情をする。辺りは次第に赤い光に包まれると、巨大な爆発が起こり火柱に包まれていく。

 激しい揺れに襲われ、緊急のアラートが表示される第2発令所のモニター。

「直撃です。地上堆積層融解!」

 シゲルが大声で叫ぶ。

「第2波が本部周辺を掘削中! 外郭部が露呈していきます」

 マコトが振り返って事態を報告する。

「まだ物理的な衝撃波だ! アブソーバーを最大にすれば耐えられる!」

 冬月がオペレーターの椅子の背もたれに捕まりながら諦めないように指示を出す。

 NERVネルフ本部の外では、激しい爆風があらゆる物を根こそぎ吹き飛ばして行く。第3新東京市で発生した爆発がみるみるうちに広がっていく。巨大な人の目の形に広がった波紋に電気が流れる。


「悠久の時を示す赤き土の禊をもって……」

「まずはジオフロントを」

 ゼーレの部屋でシナリオの進行を見届ける一同。

「真の姿に」とキールが言う。


 日本列島を飲み込んだ爆発が収まった後に、巨大なクレーターが出来上がる。地表がえぐれ、大きな穴を開けたその中心に姿を現した「黒き月」。ジオフロントは、地球の地下ではなく、「黒き月」の地表だった。

「人類の生命の源たるリリスの卵、黒き月……今さらその殻の中へと還ることは望まぬ。だが、それも……リリス次第か」

 ターミナルドグマ。リリスの前でレイの腹部に手を入れたゲンドウは、自分のシナリオを進めようとしていた。

「事が始まったようだ。さあ、レイ。私をユイの所へ導いてくれ」

 しかし、ゲンドウは手に違和感を覚えて事態を危惧する。

「まさか?」

「私は、あなたの人形じゃない」

 融合しようとした腕を急いで引き抜くゲンドウ。その手首はレイに吸収されて無くなっていた。

「……なぜだ?」

 ゲンドウは苦痛に耐えながらレイを見る。

「私はあなたじゃ……ないもの」

 レイは無表情のまま答えると、左腕を再生させていく。

「レイ!」

 呼び止めようとするゲンドウの声を無視して、レイは空中へと浮かぶとリリスの方へ向かって行く。

「頼む……待ってくれ……レイ!」

 ゲンドウが悲痛な声を上げる。

「だめ。碇くんが呼んでる」

 レイはリリスを真っ直ぐ見つめながら近づいて行く。

「……レイ!」

 リリスの胸の辺りに到達したレイは、巨大な顔を見つめて浮遊する。

「ただいま」

 ――おかえりなさい。

 ゆっくりとリリスの胸に近づいたレイは、真っ白な粘土の怪物に取り込まれるようにして姿を消す。レイを体に取り込んだリリスは鼓動を始める。足が完全なものとなり、はりつけにされていた十字架から手を引き抜いて行く。重そうな巨体をL.C.L.に着水させると、前かがみに倒れ込み、その反動で顔を下へと傾ける。リリスの作った波紋がリツコの遺体を揺らす。ゲンドウはリリスを見上げて呆然と立ち尽くす。リリスが顔を上げると、仮面が剥がれ落ちていく。

「レイ……」

 立ち上がろうとしたリリスは、徐々に人間の女性のようなシルエットに変化していく。

 第2発令所のモニターが、地下で起こっている変化を感知する。

「ターミナルドグマより、正体不明の高エネルギー体が急速接近中」

 急激な変化を示す画面を見ながらシゲルが報告する。

「A・T・フィールドを確認。分析パターン青!」

 画面の情報を見てマコトが叫ぶ。

「まさか……使徒?」

 マヤが驚いて振り向く。

「いや、違う! ヒト、人間です!」

 マコトがそう言った瞬間、首をもたげた巨大な体がゆっくりと体を起こして第2発令所に現れる。その大きく真っ白い物体は、レイそっくりの形をしている。巨人が手を持ち上げると、床やマヤの体を物理的に通り抜けて行く。

「いやあぁーっ! いやぁぁぁーーーっ!」

 マヤは、一体なにが起こったのか分からずに、頭を抱えて発狂する。

 ジオフロント上空で停止したまま浮かぶ初号機。シンジは、コックピットの上でミサトに託されたペンダントを手にして苦悩に苛まれていた。

「ちくしょぅ……ちくしょぅ……ちくしょう……畜生!」

 シンジは両手で顔を覆って苦しむ。そこに巨大化したリリスが迫る。リリスは、巨大な女性の形をした入道雲のような姿で初号機に迫り来る。シンジは、その光景に恐怖を覚えて震える。

「……綾波?」

 至近距離でリリスと顔を合わせたシンジは、リリスの容姿を見てつぶやく。

「……レイ!」

 その瞬間、リリスは目を閉じて、次に開いた時にはレイの瞳に生まれ変わっていた。

「うわあぁぁぁーーーっ」

 至近距離で巨大なレイの瞳に見つめられたシンジは絶叫する。


 ゼーレの部屋で、キールを取り囲むようにして円を描くモノリス群が合唱を唱える。

「エヴァンゲリオン初号機パイロットの荒れた自我をもって人々の補完を」

 それを受けて、キールが宣言する。

「三度の報いの時を……今」


 リリスを取り囲むように空中に停滞する量産機。そしてA・T・フィールドが展開されると、それぞれが共鳴し合い、波紋のような光を放つ。

「エヴァシリーズのA・T・フィールドが共鳴!」

 モニターを見ながらシゲルが叫ぶ。

「更に増幅しています!」

 次々と変化する現状をマコトが報告する。

「レイと同化をはじめたか」

 事の成り行きを見守る冬月。

 空中のエヴァ量産機の顔が変化し、レイの顔が生えてくる。

「うっ」

 その光景を見て、シンジは顔を引きつらせる。量産機は、次から次へとレイの顔に変化していく。弐号機との戦闘で頭部を破損した量産機から生えたレイの顔は半壊していた。そのむき出しになった眼球でシンジの方を見るレイの顔。

「うわぁぁぁーーーっ!!」

 発狂して何度も操縦桿を引くシンジ。初号機は覚醒し、コアが外部へ露出する。しかし、シンジの操作には反応せず、一向に動く気配を見せない。

「心理グラフ、シグナルダウン!」

 モニターの変化にシゲルが気づく。

「デストルドーが形而化されていきます」

 マコトが報告を入れる。

「これ以上はパイロットの自我が持たんか」

 冬月が眉をひそめる。

「もういやだ……もうやだ……もういやだ……もういやだ……いやだ……いやだ……もうやだ……もうやだ……もうやだ……いやだ……いやだ」

 シンジは両手で顔を塞いで、振るえる声で現実を拒否しようとする。

「もう、いいのかい?」

 その声に反応してシンジが顔を上げると、さっきまでレイの顔があった所にカヲルの微笑みが見えた。

「ここにいたの? ……カヲルくん」

 涙を浮かべて安心した表情になるシンジ。いつの間にか、レイの姿になったリリスの上半身が腰から折れて、腹部から巨大なカヲルが生えていた。初号機に手を伸ばすリリス。カヲルの顔を見て安心したシンジは、平穏な表情で目を閉じる。初号機の元へリリスの手が近づく。すると、光の十字架が消え去り、ロンギヌスの槍が初号機のコアへ近づく。

「ソレノイドグラフ反転! 自我境界が弱体化していきます」とシゲルが状況を報告する。

「A・T・フィールドもパターンレッドへ」

 マコトがシグナルの変化を伝える。

「使徒の持つ生命の実と、ヒトのもつ知恵の実。その両方を手に入れたエヴァ初号機は、神に等しき存在となった。そして今や、命の大河たる生命の木へと還元している。この先にサードインパクトの無からヒトを救う方舟となるか、人を滅ぼす悪魔となるのか? ……未来は碇の息子にゆだねられたな」

 冬月はもう戻れない所まできてしまったことを受け入れるしかなかった。

 初号機のコアにロンギヌスの槍が刺さり、初号機と同化していく。初号機に根が張り巡らされるようにして、その体は樹に包まれる。

「ねぇ……私たち……正しいわよね?」

 マヤが怯えながらシゲルの袖を掴む。

「分かるもんか!」とシゲルが言う。

 ロンギヌスの槍とエヴァ初号機が完全に同化する。赤い生命の樹となった初号機。その中心、かつてコアだった部分の周辺に、無数の目が生まれる。カヲルの顔をしたリリスが、レイの顔へと変化する。

「今のレイはあなた自身のものよ。あなたの願いそのものなのよ」

 母・ユイの声が聞こえる。

「何を願うの?」

 レイの声が聞こえる。

 シンジは、幸せそうな顔で、自分の意識の海へと溶けて行く。

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