シン・エヴァンゲリオン劇場版:||のストーリーとセリフ / EVANGELION:3.0+1.0 THRICE UPON A TIME

シン・ヱヴァンゲリヲン新劇場版:FINAL タイトル

 赤銅色の構造物が堅牢な姿を保持している。産業革命の遺物、錬鉄を駆使して組み上げられた塔。そしてそれは、西洋諸国でも有数の観光名所のはずだった。

 だが、そこに人の気配はなかった。市街地もろとも紅一色に染まっているのだ。彼岸を思わせるその大地をよそに、呑気に歌う女の声が無線に乗って流れているのだった。

 長さじゃないよ、人生は♪
 真実一路、生きたなら♪
 短くたってかまわない♪
 タンバリンリンリン♪

 別の回線では軍事行動が着々と進められていた。男性オペレーターの硬い声が、状況を報告する。

『パリ、カチコミ艦隊は健在。旧市街上空、ゼロポイントを降下中』

 続いて、女性オペレーターの実直な声が届く。

『全艦、防御シフトにて後進微速。重力制御、自律動作、遠隔操作、全て異常なし』

 街の中心地に黒い巨大な円柱が突き立っていた。既存の建物とは一線を画す存在だ。凱旋門の膝元、シャルル・ド・ゴール広場。そこにそびえる異質な円柱の直上に、複数の縦長の物体が回転しながら浮かんでいた。

『パリ市街上空は全方位クリア。地表のコア状況はカテゴリーシックス

 無線の発信源は円柱の付近にあった。そこで今まさに何かの大規模な作戦が始まろうとしていた。

「本船の空間座標を確認。作戦開始ポイントに到達」

 少し線の細い男性オペレーターの声を受けて、若い女性オペレーターの声が上官に向けられた。

「了解。全艦警戒シフトへ展開」

 年長者と思われる女性が宣言すると、それまで空中に浮かんでいた縦長の物体の群れが、花開くように角度を変えて横倒しとなり、天空に浮かぶ艦隊となった。

『全艦、フォーメーションを警戒シフトへ移行。エヴァ8号機およびDSRV、目標地点へ降下中』

 澄んだ空の青が高く眩しかった。鋼鉄をきしませて重厚な船体が八艦、大空を移動しながら円陣を整える。その戦艦が黒色の巨大な円柱を囲うように弧を描き始めた時、桃色の装甲に身を固めたエヴァ8号機の姿が顕になった。

 8号機は特殊作業用の義腕を装備していた。回転式の肩部に長尺の腕を備えた臨時戦闘形態だ。旗艦ヴンダーによって宙吊りにされた機体が、水平姿勢を保ったまま腕を下に伸ばし、円柱の頂上へと近づく。

 義腕の先端には機械式の万力が備わっていた。そこに人が乗れるほどの小型艇が抱え込まれていた。まるで月面着陸を想定した深海救難艇のような外観。その小型艇の脚部が着陸体勢に入り、着地時の衝撃を吸収しながら、円柱の天井に着地する。

「脚部吸着システム、問題なし」

 硬い金属同士の接触音が場に鳴り響いた。男性オペレーターが進捗を報告。

「船体の固定完了」

 小型艇の脚部がマグネットで固定されると、8号機は作業用アームを収縮させて、翼を広げるように両腕を持ち上げた。

「DSRV降着。大気成分を分析、酸素濃度マイナス3。二酸化炭素は許容範囲内。滞在可能です」

 女性オペレーターが現場の状況を読み上げた。滞在可能という言葉は、その逆の可能性を示唆するものだ。

「了解。作業開始」

 オリーブグリーンのプラグスーツの上に白衣を纏った女性が、小型艇から降り立ち、凛とした声で言った。彼女は宇宙飛行士のようにフルフェイス型のヘルメットで頭部を覆い、内部気密を保っている。

「十六年ぶりのパリ。かつて花の都とうたわれた街がこのありさまとは。痛ましいわね」

 反NERVネルフ組織WILLEヴィレの戦艦AAAスリーエーヴンダーの副長を務める赤木リツコは、無機質な構造物の頂上から赤い街を見下ろした。高度およそ二百メートル、面積およそ二十メートル四方の足場は、風に吹きさらしの状態だ。

 鮮血の色に染められた大地が地平の先まで続いていた。呑気な歌声が朗々と響く中で、リツコのヘルメットのシールド部分に警告のシグナルが灯った。

「L結界密度が予想よりも高い。ユーロネルフ第1号、封印柱。復元オペの作業可能時間は、今より七百二十秒とします」

 小型艇の下では、既に数人のオペレーターが作業を開始していた。ラップトップのキーボードを巧みに操作していた男性オペレーターが、副長の言葉に愚痴をこぼす。

「なんだよ、予定より百八十秒も短いじゃん」

 端末に接続されたケーブル類は、天板の一部を外した円柱の内部装置に繋がれていた。この黒光りする巨大な構造物は、つまり機械で制御されるものだった。

「帰投時間考慮してんのかな」

 別の男性オペレーターが懸念を表す。すると小型艇の梯子から降りてきた女性オペレーターが口を挟んだ。

「それより、このはずい格好、エヴァパイロットだけにしてほしいわ」

 WILLEヴィレの一員である北上ミドリは、体のラインがはっきりと分かる藤色のプラグスーツに嫌味な目を向けた。彼女は他の隊員と同様に、フルフェイス型のヘルメットを着用していた。

「いいから、口の前に手を動かせ」

 ヴンダーの整備長である伊吹マヤが、毅然とした態度で部下を促す。彼女のプラグスーツは黄色。その瞬間も、マヤの手は一時も休むことなくキーボードを叩き続けている。

「どう? アンチLシステムは起動できそう?」

 集中して作業を進めるオペレーター四人に、マヤが聞いた。

「はい。ステージフォーからのリドゥーでいけそうです。前任者のおかげですよ」

 男性オペレーターの回答を受けて、マヤは素早く合掌しながら胸の内で言葉を唱える。

 ――この街を残したかったあなたたちの想いは引き継ぎます。

 そして、号令を発した。

「作業、始めるわよ」

 

 間もなく、ミドリが異変を察知した。

「やっぱり来ました! エヴァ44Aフォーツー・エー航空特化タイプ、四時方向から接近中!」

 空中にクワッドローターのドローンさながら、四つの回転翼を持つ異形が群れをなして現れた。その機体は緑がかった青を基調としたカラーリングに、剥き出しの機械と鳥類の頭蓋を思わせる仮面で構成されていた。そしてその前部に、ロンギヌスの槍のような武器を突出させていた。

「見事な単縦陣。自ら群体を構成するとは、もはや新たな生物ね」

 リツコはそれを冷静に観測し、頭上で待機するエヴァ8号機に無線を送った。

「迎撃を頼むわ、マリ。あと五百六十秒もたせて」

「合点でいっ!」

 先ほどまで鼻歌を歌っていた真希波・マリ・イラストリアスが即応。赤いフレームの眼鏡の奥で、勇ましい翡翠色の瞳を光らせる。

「全ての44Aフォーツー・エーは、あっしが一気に引き付けるよん! ほんじゃ長良っち、操演よろぴくー」

 エヴァ8号機が急速に高度を上げた。エヴァ本体に飛行能力は搭載されていない。それを可能にするのは、高度上空に控えているヴンダーと機体腰部とを接続する糸状のビームだ。

「さーて、さてさて〜」

 マリはコックピットに投影されたステアリング・ホイール状のインターフェイスに掴みかかった。8号機は曲芸じみた軌道を描き、良好な反応を見せる。

「ヨー、ロー、ピッチと、面白いけど違和感あるなあ、この仕組み。せめて人型の可動域は踏襲してほしい、にゃっと!」

 マリは勢いをつけて攻撃に転じた。8号機の両腕に装備した各二門の機関砲を、ためらいもなく掃射。弾丸が敵の群体を次々と破壊。敵はA・T・フィールドを張るも脆く爆散し、空中に紫色の十字の光を灯していった。

「8号機、44Aフォーツー・エー第一波と交戦中。続いて第二波を確認。作戦どおり44Aフォーツー・エーは全て8号機に釘付けです。作業可能時間、あと四百二十秒」

 ミドリが空中戦の模様を伝える。彼女は索敵と敵情報告の担当だった。マヤを筆頭に車座になっている四人が、作業を急ぐ。

「時間かかりますね、整備帳。まるで8ビットのマイコンみたいだ」

 男性オペレーターの感想に、マヤが答える。

「エヴァ同様、人外未知の未解明システムですもの。人類の言語じゃ楽に制御できないわよ」

 左手に座っているオペレータが顔を上げた。

「ステージフォーをクリア。予定よりかなり押してます」

 マヤは動じない。

「焦らず巻くわよ」

「はいっ!」

 

 両腕から伸びる弾帯をひるがえして8号機が空中を舞う。

「とーりゃっ!」

 マリは敵機のいる方へ機関砲を振り向け、急上昇。

「速度維持、トンボ位置プラス二〇フタマル。バカ棒角度そのまま、ヨーソロー」

 機関砲の掃射で次々と敵を破壊し、逆光へ逃れようとした個体を抜け目なく追う。

「逃さん!」

 マリはそのまま薙ぎ払うように銃弾を放った。

「えーい、にゃー」

 銃撃を止めずに全方位に対して牙をむく。飛行する物体を片っ端から撃ち落とす。パリ上空とセーヌ川だけが青い。

「にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃー、にゃにゃにゃにゃー」

 マリは弾丸を打ち尽くす勢いでトリガーを引き続けた。

「にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃー!」

 すると摩擦熱に耐えかねた銃口がオーバーヒート、破損。コックピットに、アラート。

「ありゃ?」

 マリは怯むことなく機関砲を切り離パージした。それがそのまま巨大な鉄の塊となって市街地に落下した。

 すかさず敵機が陣形を整えて8号機を取り囲んだ。マリは勇ましい表情で全天周囲モニターを見回す。

「第四波か。多勢に無勢。まさに〝Many a small bird drive away a hawk.多くの小鳥は鷹を追いやる〟ね」

 

「作業残り時間、あと三百六十秒」

 ミドリがラップトップの画面から顔を上げた。

「駄目です! ステージファイブへのショートカット見つかりません」

 男性オペレーターが悲観的な表情を上官に向けた。マヤは顔を上げずに、その言葉を押し戻す。

「ダメって言うな! 奥まで探して」

「無理です! 残り時間じゃデータの上書き間に合いません」

 別のオペレーターが言った。マヤは語気を強めた。

「ムリって言うな! バイパス増やして!」

「しかし整備長、あまりにも時間が」

 これまで寡黙に作業していた男性オペレーターも、たまらず声を発した。その視界には、接地面から侵食を受けつつある小型艇の脚部が映っていた。

「弱音を吐くな! これだから若い男は」

 マヤは作業を止めずに、画面からも視線を外さなかった。

 

「ほーらっ!」

 接近戦に切り替えたマリは、果敢に敵機の迎撃を行う。空中戦であることを忘れさせるような蹴りを見舞い、操演ビームで宙吊りになった機体を振り子のように繰り出す。

「ふん、にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃっ、ていっ!」

 回し蹴りからの踵落とし、ドロップキックと続いて、腕の先端に備え付けられた万力を振り回して飛行物体を殴り落とす。複雑なマニューバ。

「はっ! とーっりゃっ! よーいっしょ!」

 前方一回転で敵の上部に飛び乗り、そのまま地上に叩きつける。赤い地面がめくれ上がるほどの衝撃が走り、めり込んだ敵の機体が爆発する直前に、再び上空へ飛び上がった。

「たっ!」

 8号機に向かって敵機の群れが突っ込んで来た。槍状の武器が機体の前面に突出している。マリは受け止めた個体を盾代わりに、飛来する敵機を次々と串刺しにして、巨大な異物の塊を作り上げた。

「とーりゃー!」

 マリは団子状に膨れ上がった敵のしかばねを遠心力の勢いで投げ捨てる。その反動で回転した機体を立て直して、敵の末路に目を向けた。

「べらぼうめ! おととい来やがれ!」

 建物に直撃した異物の塊が、爆炎を巻き上げて四散した。その中の耐えきれなくなったものが発火点となり、強烈な閃光を放ち、沈黙。

「ふふーん。お茶の子さいさいよん」

 マリがその成果を見届けると同時に、コックピットがアラートを発した。それは左手の視界に生じた異変を警告するものだった。

「ほほう。使徒もどきがおとりを使うとは、しゃらくさい」

 

 突然、空間に白塗りの結界が顕現したかと思うと、それがガラスのように突き破られて巨大な異形が現れた。瓦礫のように崩落する結界が、雪の結晶のように銀色に舞う。

「出ました! ボスキャラです!」

 その事象を予見していたかのようにミドリが叫んだ。街を蹂躙しながら進む巨大兵器は、グロテスクな触手状の脚で動く移動砲台。その後ろに二足歩行の巨人を二十体従えての登場だった。

「エヴァの軍事転用を禁じたバチカン条約違反の代物。陽電子砲装備の陸戦用4444Cフォーフォー・シーと、お付きの電力供給特化型44Bフォーツー・ビーのダブル投入とは。冬月司令に試されてるわね。私たち」

 リツコは地平に現れた敵の横陣を冷静な眼差しで見据える。

 二足歩行の巨人は無骨な発電装置を運ぶ手段でしかなかった。胸部から上が特殊な外殻にすげ替えられ、横並びに二体一組で固定されている。剥き出しのスパークプラグが中央の発電装置の上に突出している。その不気味で異様な機体が、軍隊のごとく足を揃えて行進し、そして一斉に止まった。

44Bフォーツー・ビーに高エネルギー反応、増大中!」

 巨人に挟み込まれる形でぶら下がっている発電装置が振動を始めた。ミドリがそれを伝える。

「全艦、地対地防御シフト! 総員、対ショック対EMI防御!」

 リツコが無線を通じて号令を飛ばした。空の艦隊はこのために展開していたのだ。ヴンダーの操演で空中を旋回し始めた八隻のアイオワ級戦艦が、シールドを装備した艦底部を前にせり出して防御体勢を取った。空中にそれを支えるビームがきらめく。

4444Cフォーフォー・シー、発射態勢に入りました!」

 敵陣の先頭に鎮座する砲台が光を発した。四体の人型に支えられた砲身が神輿のように揺れる。

44Bフォーツー・ビー、大電力を発電中! エネルギー超高電圧放電システムへ! 4444Cフォーフォー・シー、全給電システムを解放! 続けて、陽電子加速システム最終段階。尾栓をロック!」

 ミドリが刻々と迫る脅威を言語化。それは発電装置のエネルギーが先頭の砲台に流れ込む光景だった。砲身へと続く装置が生き物のように蠕動ぜんどうし、光の束を飲み込んでゆくかのように見えた。

「来ます!」

 スパークプラグが稲妻のような青い光を放ち、砲台の底部に備わる受容体に点火。直後、使徒の強烈な光線を彷彿とさせる一撃が、WILLEヴィレ艦隊の防御陣形に襲いかかった。

 艦底部のシールドを貫通して一隻目が大破。超高温高密度のエネルギーが容赦なく鉄を融解させた。真っ二つに引き裂かれた船体が宙を舞い、立て続けに二艦、三艦と被弾すると、早くも陣形が崩れ始めた。

 敵の攻撃は圧縮された放水のごとく、なおも続く。鉄くずと化した戦艦がパリ市街地に降り注ぐ。根こそぎにされた主砲が地面をえぐり、大地を揺るがす。吹き飛ばされた船体の一部がエッフェル塔を直撃し、全高三百メートル、総重量一万トンを超える構造物に致命的な損壊をもたらした。

「うわー」

 巨大な衝撃波がオペレーターを襲った。オレンジ色の熱流が空間に渦巻く。円柱の上部は吹きさらしで無防備な状態だ。それを守る最後の砦となった戦艦が、敵の攻撃に押されて眼前に迫る。

 覚悟の表情で見据えるリツコは、一歩たりとも動かない。それが円柱に直撃する寸前のところで、エヴァ8号機が割って入った。

「たーっ! 滑り込みセーフ」

 高熱もろとも弾き返す勢いで、8号機の両足が船体を蹴り飛ばした。鉄くずと化した戦艦がシャンゼリゼ通り付近に落下し、土煙を巻き上げる。凱旋門を中心に放射状に伸びる区画の上空で、マリは敵の陣営と単騎で向かい合った。

「こりゃ、次撃たれるとあじゃぱーね」

 だが、敵は休む暇など与えてはくれない。

「再び、44Bフォーツー・ビーに高エネルギー反応! 大出力電力放射装置に蓄電中」

 ミドリが言う通り、巨人の担ぐ発電装置が光を帯びて振動を再開した。敵の主機が触手で建物をなぎ倒しながら砲座を高く持ち上げた。

「早っ! 4444Cフォーフォー・シー、加速を開始。早くも発射態勢!?」

 最初の砲撃時と同様に、砲台底部の受容体が青く輝き始めた。

「超マズ! 第二射すぐに来ます! 激ヤバですぅ!」

 ラップトップのディスプレイに表示された警告に圧倒されながらミドリが言った。ここで撃たれたら最後、剥き身の状態で焼かれるどころか、跡形もなく消し飛ばされてしまう。このまま撃たせるわけにはいかない。

 マリ操る8号機が、エッフェル塔の先端を担いでパリ大通りを駆け出した。第二展望台からへし折れた塔は、それだけで百五十メートルにもなる大物だ。周辺の家屋に鉄塔が接触し、損壊するのも気にせずに、マリは敵陣を目指して突っ込んでいった。

「えーい! 長良っち、陽動よろしく」

『了解』

 ヴンダーの操舵者、長良スミレが素早く反応。座礁船と化していた船体をビームで持ち上げ、敵の砲台に向かって投げ込んだ。

 敵は触手を振り上げてその攻撃を弾いたが、背後に控えて飛び上がっていた8号機が強襲を仕掛けた。

「とーりゃー!」

 8号機の両腕で抱えあげられたエッフェル塔が破城槌となって敵に迫る。空中で衝撃が走り、8号機の脚が敵の触手に絡め取られたのが分かった。

「なんの、これしきっ」

 マリは両肩のバーニアスラスタを噴射し、回転を加えながら、ねじり込むように敵の砲身を粉砕。そのままA・T・フィールドを突き破って、砲台そのものを押し倒しにかかった。

Excusez-moi, Eiffel!ごめんね、エッフェル

 体勢を崩した敵が、ついに押し負けて横倒しになった。制御不能で暴れまわる触手が巨人の横列をなぎ倒し、轟音と粉塵を巻き上げた。直後、8号機が離脱すると同時に、巨大な核爆発が引き起こされた。

 

4444Cフォーフォー・シー、完全に沈黙。作業残り時間、あと三十秒!」

 ミドリは唖然とする気持ちを抑えて最後のカウントを行った。

「アルゴリズム解析、C言語にシフト!」

「最終セキュリティ、ロックを解除!」

「アンチLシステム、ステージファイブを全てクリア!」

 オペレーターが各々の状況を報告。マヤがそれを継いで、これまでの作業を総括する。

「副長先輩、発動します!」

 黒い巨大な円柱に変化が生じた。黒光りする表面に赤い光の紋様が浮かび上がると、円柱の上部に突出した足場へ向かって、円柱そのものがせり上がってきた。

「パリ旧市街エリア、復元! ユーロネルフ施設の全凍結システムも再起動! 復旧します」

 円柱は凱旋門の広場に突き立っているが、そこから放たれた同心円状の光が、赤く染まっていた大地を元の色彩へと戻していった。オーロラのように光輝く膜が地上に行き渡る。

 街の景色が復元すると、機械化された地下設備が稼働を始めた。石造りの建築物が、基盤となる堅牢な構造物によってリフトアップされる。鋼鉄の壁にはNERVネルフのシンボル。それはまさに要塞都市だった。エトワール広場を囲うように起立した高層タワーの両翼に、通常の建物とは比較にならないほど巨大な分厚い壁が出現した。

 残り時間十一秒〇三――。

 停止したカウントタイマーを前に、ミドリは肩を落として息を吐いた。他のオペレーターも同様に、緊迫を解いて安堵の息を漏らしていた。マヤは両手を後ろについて天を仰いだ。重要任務を完遂したチームの元へ、リツコが歩み寄る。

「マヤ、ご苦労さま」

 ねぎらいの言葉をかける時でも、リツコの口調は冷静だった。

「まさに、タッチの差ね。カチコミ完了。ミサト、荷物を取りに来てちょうだい」

 ヘルメットの気密シールドを開いてリツコは言った。

『了解。これより補給地点まで降下する』

 無線を通じてミサトの声が聞こえた。慌ただしさを取り戻していく空に、旗艦のオペレーターたちの指示が飛び交う。ヴンダーの機体が高度を下げて円柱に近づく。

『総員補給準備。エヴァの予備パーツおよび武器弾薬の回収を最優先』

『補給担当艦船を全て降ろせ。空母が先だ、急げ!』

『2号機の新造に必要な部位は一つ残らずかき集めておいて』

 マヤが上空の作業員に向けて無線を送った。

 その時、マリはコックピットのスクリーンを透過モードに切り替え、先ほど出現した高層タワーの中に格納されているエヴァの特殊装備を眺めていた。

「細工は流々。これで、ニコイチ型2号機の新造と、オーバーラッピング対応型8号機への改造ができるにゃ」

 達観した様子で腕を組み佇む彼女は、目的の人物に語りかけるような調子で独り言をつぶやいた。

「どこにいても必ず迎えに行くから。待ってなよ。ワンコ君」


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