幼い頃のアスカは、母親の記憶に向かって走っていた。人類を守るエースパイロットになったことを報告するために。自分が必要とされている事を誇らしく思い、寂しくはないと母に伝えるために、アスカは走ってドアを開けた。しかし、そこに現れたのは、かつて母親だった体が、首を括ってぶら下がる光景だった。
憔悴しきったアスカが発見されたのは、行方が分からなくなってから7日後のことだった。それと同時に、フィフスチルドレンが到着する。タイミングの良すぎる展開に、ミサトはシナリオがまだ続いていることを確信する。
その頃、シンジは部屋のベッドで仰向けになってレイの事を考えていた。既にシンジは気づいていた。そこに母の面影があることを。父・ゲンドウは何を企んでいるのか、シンジはますます分からなくなっていく。
リツコは、ダミーシステムを破壊したことを問われていた。ゲンドウに向かって感情を露にするが、ゲンドウは取り合おうとしない。方向を見失ったリツコに対して、ゲンドウは「君には失望した」とだけ言ってその場を去る。
弐号機の前で、シンジはアスカの身を案じていた。しかし、実際に会ったところでどう振舞ったらいいのか分からないままだった。零号機の最期が作り出した真新しい湖の水際に立ったシンジは、誰にも頼れない孤独感を夕日に晒していた。その時、聞き覚えのない声で鼻歌が聞こえてくる。
歌はいいねぇと言って、その少年はシンジの名前を呼んだ。自分の名前を知っていることに驚いたシンジに向かって、君は自分の立場をもう少しは知ったほうがいいと思うよ、と言った。少年は、自らの名を「渚カヲル」と言った。彼は、シンジとと同じように仕組まれた子供、フィフスチルドレンと言った。カヲルでいいよ、と親しげな笑顔を向ける少年に、僕も、シンジでいいよと答えた。
委員会が直で送ってきた子供ということに、ミサトは既に〝フィフスチルドレン〟に疑いを掛けていた。同じように思っていたオペレーターのマコトは、諜報部のデータに割り込みリツコの居場所を入手していた。マコトは、それを密かにミサトへと伝える。
フィフスチルドレンのシンクロ率は予想を上回るものだった。弐号機でのテスト結果は、不自然なほど高い数値だった。それは、システム上ありえないほどに。前提に疑いを持つミサトは、オペレーターに冷静になるよう促し、事実を受け止めてから原因を探るように伝える。
「君がファーストチルドレンだね」レイと接触したカヲルは、見透かした態度で、君は僕と同じだねと言う。
レイは「あなた誰?」と言って表情を強張らせた。
家に戻る気がしないシンジは、NERV本部の入出ゲートの前で音楽を聴いていた。
「僕を待っててくれたのかい?」そう言ってゲートからカヲルが現れる。
シンジは照れを隠してとぼけた態度を取る。シンジがこれからシャワーを浴びて帰るだけだと言うと、カヲルは一緒に行っていいかいと言った。
シャワーを浴びた後、シンジとカヲルは湯船に並んで疲れを癒やした。一時的接触を極端に避けるね、と言ってカヲルは、人と触れ合うのが恐いのかとシンジに問いかける。人間は寂しさを永久に無くすことはできない。人は一人だからね。ただ忘れることができるから、人は生きていけるのさ。そう言い終わると、カヲルはシンジの手に自分の手を重ねた。
驚きと恥じらいが同時に訪れたような、複雑な感情を抱いて、シンジはカヲルの方を見た。すると、照明が落ちて辺りは暗くなった。寝る時間の合図だとシンジは言った。もう寝なきゃと言うシンジに、「君と?」と言ってカヲルがからかう。シンジは、その言葉を聞いて焦りを見せる。カヲルは湯船から立ち上がると、常に人間は心に痛みを感じている。心が痛がりだから、生きるのも辛いと感じる。と言いながらシンジの方を見た。シンジの心を指して、ガラスのように繊細だね、とカヲルは言った。「僕が?」と聞き返すシンジに、「好意に値するよ」とカヲルは言う。「コウイ……」言葉の置き場所に迷うシンジに、好きって事さ、とカヲルは言った。
The Beginning and the End, or “Knockin’ on Heaven’s Door”
本来のシナリオへと戻すために、ゼーレはゲンドウの処分を策略する。一方ゲンドウは、最期の使徒が現れ、自分のシナリオが達成されることを望んでいた。ゲンドウは初号機に向かって呟く。
「もうすぐだよ、ユイ」
私、なぜまた生きてるの――?
レイは部屋で見覚えのない記憶を探っていた。自分と同じ感じがするカヲルの存在に、レイは疑問を抱いていた。
シンジとアスカが帰らない家。ミサトはバルコニーから街の景色を眺めている。
「明日からは洞木さんちのお世話になるのよ」そう別れを告げてペンペンを抱きしめる。
「君は何を話したいんだい?」
カヲルの部屋に泊まることにしたシンジは、胸の内を語り始める。ここに来る前は穏やかな日々を送っていたこと。父・ゲンドウのことが嫌いだということ。シンジは、会って間もない人間に対して、どうしてこんなことを話しているのだろうと考えた。ふとカヲルの方を見ると、全てを見透かしたような目でシンジを見つめていた。シンジは、目と目が合ってたじろぐ。するとカヲルは意外な言葉を口にした。
「僕は君に逢うために生まれてきたのかもしれない」
地上でマコトと密会するミサト。マコトが無断で入手した5人目の少年についてのデータを見て驚く。そこには、自分の意思でエヴァとのシンクロ率を自由に設定できるという内容が記録されていた。なり振りを構っていられなくなったミサトは、次の行動に出る。
幽閉されているリツコの下へ訪れたミサトは、盗聴されていることを承知でフィフスチルドレンの正体を聞き出そうとする。そこでリツコは「おそらく、最後のシ者ね」と答えた。
弐号機の前に立ったカヲルは、「さあ行くよ。おいで、アダムの分身。そしてリリンの僕」と言ってエヴァを起動させた。エヴァ弐号機起動の合図を受けて、発令所は混乱をきたした。エントリープラグが挿入されていない無人の弐号機。セントラルドグマに、A・T・フィールドの発生を確認したモニターは、「パターン・青」で使徒と認定する。
フィフスチルドレンは第17使徒タブリスだった。冬月は、セントラルドグマの全隔壁を閉鎖して少しでも時間を稼ごうとする。
「まさか、ゼーレが直接送り込んでくるとはな」と言って冬月は額に汗をかく。ゲンドウはゼーレの思惑を察知する。
「老人は予定を一つ繰り上げるつもりだ。我々の手で」
ゲンドウは、いかなる手段を用いても目標のターミナルドグマ侵入を阻止するよう命じ、使徒を初号機で追撃させるように指示を出す。シンジはカヲルが使徒だったことを受け入れようとしない。しかし、ミサトの説得によって冷静になると、自分の気持ちを裏切った者として追撃を開始する。そして初号機は弐号機に追いつく。
カヲルは人類のことを指して「リリン」と呼んだ。彼は、人間にとって忌むべき存在であるエヴァを利用してまで生きようとする人類が理解できないと漏らす。目の前で弐号機と格闘する初号機。シンジはカヲルに向かって止めるように叫ぶ。カヲルは、自分はエヴァと同じ体で出来ていると言う。自分もアダムから生まれたのだと伝える。その時、エヴァ二体の間でせめぎ合っていたプログ・ナイフが弾かれ、その刃先がカヲルの方へ向かう。しかし、カヲルの前にA・T・フィールドが張られ、巨大なナイフを難なく止める。その光景にシンジは驚く。
A・T・フィールド――そう、君たちリリンはそう呼んでるね。なんぴとにも侵されざる聖なる領域、心の光。リリンもわかっているんだろ? A・T・フィールドは誰もが持っている心の壁だということを――。
「そんなの分からない」とシンジが叫ぶ。弐号機のナイフが初号機の胸に突き刺さる。初号機もそれに応戦する。
初号機の信号が消えて、もう一度変化があったときは……。発令所のミサトは、周りに悟られないようマコトに耳打ちする。二人は、サードインパクトが起こる前にNERVごと自爆させる気でいた。謝罪の言葉を口にしたミサトに、いいですよ、あなたといっしょなら。とマコトが答える。
ついに最深部へと辿りついたエヴァと使徒。その時、強力なA・T・フィールドの衝撃によってNERV全体が揺れる。まさに結界か、とミサトが呟くと同時に、エヴァとの通信が途絶えた。
引きとめようとするシンジの声に、物悲しい目で立ち去ろうとするカヲル。追いかける初号機の脚を掴んで、弐号機が阻止しようとする。カヲルは最期の扉の安全装置を解除する。マコトは固唾を呑んで、「ヘヴンズドアが開いて行きます」と言った。ミサトは覚悟を決める。その時、再び大きな揺れが起こった。ターミナルドグマの結界周辺に前回と同等のA・T・フィールドが観測される。そしてそれは、結界の中へ侵入していく。新たな使徒が現れたのかとミサトが聞くと、オペレーターのシゲルは、消失したことを告げた。
ターミナルドグマに現れたのはレイだった。巨大な空間にある壁伝いの足場から、カヲルの方へ冷たい視線を送る。アダムの前に到達したカヲル。
「われらの母たる存在……アダムより生まれしものはアダムに還らねばならないのか? 人を滅ぼしてまで……」そう言い掛けたカヲルは自分の目を疑った。「違う……これは……リリス! そうか、そういうことかリリン!」
次の瞬間、壁を突き破った弐号機が床に倒れて沈黙する。続いて現れた初号機がカヲルに近づいて行く。そして、初号機はカヲルの体を巨大な手で捕まえた。
「ありがとう、シンジ君」
弐号機は君に止めておいてもらいたかったんだ。そうしなければ彼女と生き続けたかもしれないからね、とカヲルは言った。
「カヲル君……どうして……」
カヲルの真意が分からないシンジは問いかける。人が滅びてまでも、生き続けることが自分の運命だからだよ、とカヲルが答える。しかし、このまま死ぬこともできるとカヲルは続ける。彼にとって生と死は等価値だっだ。
「自らの死、それが唯一の絶対的自由なんだよ」
それを〝遺言〟だとするカヲル。何を言おうとしているのか分からないとシンジは言う。今ここで自分を消さなければ、君たちが消えることになるとカヲルが伝える。滅びを免れ、未来を与えられるの生命体は一つしかないのだと。
「そして、君は死すべき存在ではない」
カヲルはレイの方へ視線を向けた。
「君たちには未来が必要だ」そう言ったカヲルは、最期に、ありがとう。君に逢えて、嬉しかったよとシンジに伝える。
エヴァ初号機は、握り締めた手の中にあるカヲルを見つめ続けた。長い膠着状態。そして、ターミマルドグマのL.C.L.の海へと〝使徒〟の首が落ちた。
引き上げられて洗浄される初号機を、ゲンドウとレイが無言で見上げる。
暗い夜の湖の辺に浮かぶ二人の影。カヲル君が好きだって言ってくれたんだ、と初めて人から好きだと言われたことを、シンジはミサトに告げる。自分に似ていた。レイにも似ていたと、そんなカヲルの事が好きだったと漏らすシンジ。そして、生き残るのはカヲルの方だったんだと言う。自分よりもカヲルの方がいい人だったと言って、カヲルが生き残るべきだったと告げる。ミサトはそれを否定する。
「生き残るのは生きる意志を持った者だけよ」
カヲルは死を望んだ。生きる意志を放棄して見せ掛けだけの希望にすがったのだとシンジに言って、シンジは悪くないと伝える。しかし、その言葉に浮かない返事を返すシンジ。
「冷たいね……ミサトさん……」