ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破のストーリーとセリフ / EVANGELION:2.0 YOU CAN (NOT) ADVANCE.

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破 タイトル

 北極・NERV旧北極基地 ベタニアベース。

 コックピットに乗り込んだ少女は、オペレーターの通信が飛び交う最中で、肩で息をしながら待機していた。少女の顔にはバイザーが装着され、その殆どが覆われていた。バイザーには“EVANGELION-05”の文字が刻まれていた。

『Start entry sequence.(エントリースタート)』
『Initializing L.C.L. analyzation.(LCL電荷を開始)』
『Plug depth stable at default setting.(プラグ深度固定、初期設定を維持)』
『Terminate systems all go.(自律システム問題なし)』
『Input voltage has cleared the threshould.(始動電圧、臨界点をクリア)』
『Launch prerequisites tipped.(全て正常位置)』
『Synchronization rate requirements are go.(シンクロ率、規定値をクリア)』
『Pilot, Please specify linguistical options for cognitive functions.(操縦者、思考言語固定を願います)』
「えーっと、初めてなんで、日本語で」
 オペレーターに呼ばれたことに気づいた少女は、呼吸を一旦沈めてからそれに答えた。
『Roger.(了解)』
「うっ……ぅっ」
 少女はコックピットの上で、慣れないプラグスーツに体を馴染ませるように体を伸ばす。そこに日本語で通信が入る。
「新型の支給、間に合わなかったな」
 声の主は加持だった。加持は砕けた口調で少女に話しかけた。
「胸がキツくて嫌だ」
 少女は少し気だるそうにぼやく。
「おまけに急造品の機体で、いきなり実戦とは、真にすまない」
「やっと乗せてくれたから、いい」
 少女はコックピットの座席にすっぽりと体をフィットさせる。
「お前は問題児だからな。まあ、頼むよ」
 加持の言葉をよそに、少女は機内の計器をいじり始めた。
「動いてる。動いてる。いいなあ。ワーックワクするなあ」
 少女は一通り感触を確かめると、前を向いてぐっと気合を入れる。
「さて、エヴァンゲリオン仮設5号機起動!」
 その掛け声と共に、バイザーの“EVANGELION-05”の文字が発光し、エヴァの目に光が灯る。

 地下通路内で巨大な移動体を追撃する戦車隊。その物体は、四本の脚の上に硬い殻の胴体が乗っており、そのヤドカリのような胴体から首長竜の骨のようなものが伸びている奇妙な形をしていた。それが、目を光らせ首をぐねぐねと揺らしながら高速で通路を進行しているのだ。オペレーションルームでは、司令官が敵の侵攻を止められずに焦りを見せていた。
「Defend the Limbo Area at all costs! We cannot allow it to escape from Acheron!(辺獄エリアは死守しろ!奴をアケロンに出すわけにはいかん!)」
「How can a containment system as secure as Cocito be neutralized……(まさか封印システムが無効化されるとは……)」
「It was within the realm of possibility.(あり得る話ですよ)」
 激を飛ばす三人の司令官たちの前に加持が現れる。
「On its own,humanity isn't capable of holding the angles in check.(人類の力だけで使徒を止める事は出来ない)」
 加持は呆然と見ている司令官に対して流暢な英語をまくし立てる。
「The analysis following the permafrost excavation of the 3rd Angel was so extensive all that was left were some bones and that was the conclusion.(それが永久凍土から発掘された第3の使徒を細かく切り刻んで、改めて得た結論です)」
 加持はそう言ってジェット機用のヘルメットを被ると、さっと手を上げてその場を去る。
「That said.Gotta run!(てな訳で、後はヨロシク!)」

「♪しっあわせはー あるいてこない だーからあるいてゆくんだねー」
 エヴァに乗って使徒を追撃する少女は、上機嫌で歌いながら地下通路を進んでいた。
「♪いっちにちいっぽ みっかでさんぽ さーんぽすすんで にっほさがる じーんせいは わんつー ぱんち」
 仮設5号機は車輪の付いた四本の脚を使って、地下通路を高速で移動する。
「うおっ来たぁ!フィールド展開!」
 目標を確認した少女は攻撃態勢に入る。
『Target inbound! EVA Unit-05 is about to engage the hostile.(目標接近。エヴァ5号機会敵します)』
 仮設5号機は、トンネルのような通路内で使徒と正面から接近する。少女はスピードを緩めることなく、右手に装備された大型の槍を一気に突き出した。
「うぉーりゃぁっ!」
 使徒は、仮設5号機の一撃をA.T.フィールドで弾いてするりと交わすと、そのまま仮設5号機が来た道へと走り去って行った。
「あっちゃー!動きが重いっ」
 少女は振り向いて急ブレーキを掛けた。
「……てっ。こりゃあ、力押ししかないじゃん」
 車輪を逆回転させて火花を散らしながら機体をストップさせた少女は、勢いを付けて使徒の後を追う。使徒は目から光線を照射して壁を破壊すると、空間が開けた場所へ辿りついた。そして、頭上に光の輪を作り、施設の天井と結合させると、引っ張られるようにして上階へと上がって行った。
「Upper outer wall integrity compromised.(上部外壁破損)」
「The final seal is about to be breached.(最終結界が破られます)」
 オペレーションルームの女性オペレーターが使徒の状況を伝える。
 使徒は天井の外壁を押し出して、それをいとも簡単に切断すると、上空へと上っていく。
「Target has broken through Limbo area.(目標は辺獄エリアを突破)」
「Now moving into Acheron!(アケロンへ出ます!)」
 オペレーターが報告する状況に苛立ち、司令官の一人が声を上げる。
「Get Unit 5 to do something!(5号機は何やっとる!)」
 ようやく使徒の上っていった縦穴の出口に辿りついた仮設5号機は、勢いを付けてジャンプした。
「逃げんなーっ!おりゃあーっ!」
 勢い良く外に飛び出した仮設5号機は、槍を突き出して使徒を柱に串刺しにする。使徒は首の骨を突かれてぐったりとする。しかし次の瞬間、ぐねぐねと動き回った後に仮設5号機に向かって光線を発射する。
「ううぅ、いったーい。すっげえ痛いけど、面白いからいいっ!」
 少女はそう叫ぶと、もう片方の腕を振りかざして使徒のコアに掴みかかる。この時点で仮設5号機の活動限界は30秒を切っていた。
「時間がない。機体も……持たないぃ……。義手パーツは、無理矢理シンクロさせてる分、パワーも……足りないっ!」
 使徒は、再度強力な光線を目から放った。その攻撃が仮設5号機の脚をなぎ払い、切断された脚が落下する。
「……えーい。しゃあない。腕の一本くれてやるっ!」
 少女は、腕に固定されていた槍を強制的に引き抜くと、両腕を使って使徒のコアを握り潰しにかかる。
「さっさと、くたばれえええぇぇぇーーーーーーっっっ!」
 少女は、渾身の力を込めて操縦桿を押し出した。使徒のコアがジリジリと光を失っていく。そして、ガラス玉が砕けるような音を立てて使徒のコアが握り潰される。使徒のコアから血が噴出すと同時に、少女は仮設5号機の脱出ポットのロックを外した。エントリープラグが射出され、脱出ポッドのジェットが点火される。少女の乗ったプラグは、その場から上空へ高く飛ばされた。仮設5号機は使徒殲滅と同時に自爆し、巨大な爆発をもって施設ごと吹き飛ばしてしまう。

 加持の乗った飛行機は、既に遥か上空を飛んでいた。
『Target obliterated.(目標消失)』
『Unit Five has been vaporizerd.(5号機は蒸発)』
『Pilot appears to have ejected.(操縦者は脱出した模様)』
 機内にオペレーターの通信が飛び交う。
「5号機の自爆プログラムは上手く作動してくれたか……折り込み済みとはいえ、大人の都合に子供を巻き込むのは気が引けるなぁ」
 加持は窓から海面を眺めて仕組まれた事故の事を思う。

 緊急脱出した少女は、エントリープラグごと海に不時着した。
「……いっててて……。エヴァとのシンクロって聞いてたよりきついじゃん……」
 少女は、プラグのハッチから出ると、ヘルメットを脱いで長い髪を風に当てる。
「まあ、生きてりゃいいや。自分の目的に大人を巻き込むのは気後れするなぁ」
 そして、プラグの上に立って戦闘跡地に高く上った光の十字架を眺める。
「さよなら……エヴァ5号機。お役目ご苦労さん」


 ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破


「3年ぶりだな、二人でここに来るのは」
 ゲンドウとシンジは、ユイの墓がある場所へ訪れていた。地平線の向こうまで続く砂漠地帯。そこには無数の石碑がサボテンのトゲのように立っていた。
「僕は、あの時逃げ出して……そのあと来てない。ここに母さんが眠ってるってピンとこないんだ。顔も覚えてないのに」
 シンジは、母の墓前に花を手向け、ひざまずいていた。
「人は思い出を忘れることで生きていける。だが、決して失ってはならないものもある。ユイはそのかけがえのないものを教えてくれた。私はその確認をするためにここに来ている」
 ゲンドウはユイの石碑から一歩引いたところに立って淡々と語る。
「写真とかないの」
 シンジはゲンドウの方は見ずに立ち上がった。
「残ってはいない。この墓もただの飾りだ。遺体はない」
 ゲンドウはシンジの背中から視線を外す。
「先生の言ってた通り、全部捨てちゃったんだね」
 シンジは悲しさを通り越したような表情をする。
「すべては心の中だ。今はそれでいい」
 ゲンドウがそう言い終わった後で、NERVの垂直離着陸型の輸送機が到着した。
「時間だ。先に帰るぞ」
 ジェットエンジンが砂埃を上げる中で、ゲンドウはシンジの方を見る。シンジは無言で振り向く。輸送機の窓からレイの姿が見える。ゲンドウが立ち去ろうとした時、シンジは思い切って声を上げた。
「……父さん!」
 輸送機に近づいて行く途中にあったゲンドウが振り向く。
「あの……今日は嬉しかった……父さんと話せて」
「そうか……」
 ゲンドウが乗り込んだ輸送機は、ゆっくりと機体を上昇させていく。シンジはしばらくの間それを見上げてから、遠ざかっていくジェットエンジンの音に背を向けて歩き出した。車に寄りかかってい待っていたミサトは、シンジが向かってくる姿を見て体を起こす。


「どう?シンジ君。あれこれ心配してたけど、会っちゃえばどうってことなかったでしょ?」
 ミサトは、車の中で黙って外を見つめているシンジに向かって話しかけた。
「……」
 シンジは、片肘をついて助手席の外に流れる景色を見続けていた。
「家でウジウジしてないで、来て良かったじゃない。お母さんのお墓参りなんだし」
 車は箱根の山間部をゆっくりと通り抜けていく。
「ミサトさんがムリヤリ連れてきただけです」
「そりゃぁ、シンジ君の中に行きたいって気持ちがあったからよ。少しは素直になりなさい」
「素直になったって嫌な思いするだけです」
 ミサトの言葉に反して、シンジの声色は暗かった。
「みんなの期待に答えて、私たちを救ったのよ。もっと自信持ちなさい」
「……」
「きっとお父さんも、シンジ君を認めてくれてるのよ」
 シンジは無言で外を眺めていた。その時、ミサトが付けているハンズフリーの通信に呼び出しが掛かる。
「はい葛城」
 ミサトが声を正して応答した瞬間、突然空から戦艦の砲台が飛来してくる。そして、ミサトの進行方向の目の前に落下した。
「うわぁあぁっ!」
 ミサトは、突然の出来事に声を上げながらも、何とかハンドルを切って衝突を回避する。
「なんですって!?」
 ミサトはスリップ音を響かせながら車体を立て直す。


 その頃、海上では戦艦が巨大な移動物体と交戦していた。それは紛れもない使徒だった。使徒は長い2本の脚で水面を移動し、仮面のような頭部を反時計回りに回転させていた。そして、使徒が頭部から光線を放つと、そのエネルギーによって海水が間欠泉のように吹き上がり、次々と戦艦を持ち上げて破壊していった。
「相模湾沖にて、第7使徒を捕捉。第2方面軍が交戦中。3分前に非常事態宣言が発令されました」
 ミサトが受け取ったのは、第1発令所のシゲルからの報告だった。
「こちらも肉眼で確認したわ。現在初号機パイロットを移送中。零号機優先のTASK-03を、直ちに発動させて」
「いえ、すでにTASK-02を実行中です」
 マコトの報告によって、事態はミサトの予想よりも早く進行していることが分かった。
「TASK-02?まさか!」
 ミサトが驚いて空を見上げたタイミングで、上空に飛来していた輸送機からエヴァが切り離される。
「やはり2号機!」
 ミサトは車の窓から身を乗り出して、空を舞う赤い機体を見上げた。
 輸送機から飛び立った2号機は、使徒に向かって急降下していく。途中、輸送機から落とされたクロスボウ型の武器を拾おうとするも、使徒の攻撃に阻まれて回収を失敗。攻撃を回避しつつ2度目のアプローチで回収を成功させる。武器を手に取った2号機はすぐさま使徒に向けて発射。その弾道は、見事に使徒のコアを捕らえた。
「すごい……コアを一撃で!」
 シンジはその戦いぶりを見て驚きの声を上げる。しかし、助手席のシンジの方に体を寄せて窓から顔を出したミサトは、まだ使徒が倒されていないことを見抜く。
「違う、デコイだわ!」
 使徒は、一旦体を撒菱状のパーツに分離するが、直ぐに再結合すると、下にぶら下がっていた本物のコアを振り子のようにして上部へ持ち上げた。2号機は怯まずにクロスボウを連射する。しかし、今度はA.T.フィールドで完全に弾かれてしまう。効果の見込めない武器を捨てた2号機は、回転して勢いを付けた後に、飛び蹴りの姿勢で使徒へ突っ込んでいく。
「どをりゃあぁぁぁーーーっ!」
 2号機の脚から突き出したニードルが使徒の本体を捕らえる。そして球体の内部にめり込むと、貫通して反対側から飛び出した。2号機のニードルにはしっかりと使徒のコアが刺さり、勝負はここで決まった。使徒のコアが真っ赤な液体を撒き散らすと同時に、巨大な十字架の光を放って爆発する。2号機は体を回転させて華麗に地上へと着地する。しかし、運悪くそこに駐車していたミサトの車は横転し、2号機の足にぶつかって大破する。2号機は腰に手を当てて零号機の前に立つと、自信満々な態度を見せる。そして2号機のパイロットは「状況終了!」と告げる。


 戦闘が終わりエヴァの機体が陸路で回収される。
『第4地区の封鎖は全て完了』
「ふぇー……。赤いんか2号機って」
 目の前を通り過ぎていく2号機を見上げてトウジが声を上げた。その横にビデオカメラのファインダーを夢中で覗くケンスケと、ぼうっと立っているシンジの姿があった。少し離れた場所にレイが立っている。すると、突然高飛車な少女の声が響いた。
「違うのはカラーリングだけじゃないわ。所詮零号機と初号機は、開発過程のプロトタイプとテストタイプ。けど、この2号機は違う。これこそ実戦用につくられた世界初の本物のエヴァンゲリオンなのよ。正式タイプのね」
 2号機の上に仁王立ちで現れた少女は、気の強い眼差しで少年たちを見下ろす。その少女は、明るい栗色のロングヘアーと青い目をしていた。
「紹介するわ。ユーロ空軍のエース、式波・アスカ・ラングレー大尉。第2の少女。エヴァ2号機担当パイロットよ」
 遅れて到着したミサトが一同に少女を紹介する。
「はっ、ほっ、よっ」
 アスカは、第9番停車場に運び込まれる2号機の上をぴょんぴょん飛んでミサトの所まで降りてくる。
「久しぶりね、ミサト」
 アスカは、何も言わずに歩き去っていくレイの後姿をミサトの肩越しに見つけて嫌味を言う。
「はん、あれがエコヒイキで選ばれた零号機パイロット」
 次に三人の男子を気に入らなそうな目つきでゆっくりと見回す。
「で、どれが七光りで選ばれた初号機パイロット?」
「あ、あの……」
 シンジは、アスカの態度に気後れしながら返事をする。アスカはシンジの声に反応して一歩踏み出すと、人差し指をビシっと突き出して言う。
「ふーん。あんたバカぁ??肝心な時にいないなんて、何て無自覚」
 アスカはおもむろに足払いを仕掛ける。シンジは足を取られて地面に尻をつく。
「うわっ」
「おまけに無警戒。エヴァで戦えなかったことを恥とも思わないなんて、所詮、七光りね」
 アスカは倒れたシンジの目の前に立ちふさがって腰に手を当てると、弱い者を見る目でシンジを見下ろす。その光景を見てミサトはやれやれといった表情をする。

 シンジ、トウジ、ケンスケの三人は、駅の改札口へ向かってエスカレーターに乗っていた。
「まったく、何様やあのオンナ!何ぬかしとんねん!」
 トウジがアスカの振る舞いを思い出して腹を立てる。
「それにしても、同い年にして既に大尉とは、凄い!凄すぎる!飛び級で大卒ってことでしょ?」
 怒るトウジとは裏腹に、ケンスケはアスカに憧れを抱いたことを隠さない。
「失礼」
 二人の話をぼうっと聞いて歩いていたシンジは、唐突に声を掛けられる。
「ジオフロントのハブターミナル行きはこの改札でいいのかな?」
 そこには、大きなケースを持った加持が立っていた。
「あ、はい。4つ先の駅で乗り換えがありますけど」
「うーん……たった2年離れただけで、浦島太郎の気分か……」
 加持は天井からぶら下がった路線地図を眺めてしみじみと言った。
「ありがとう!助かったよ。……ところで、葛城は一緒じゃないのかい?」
 加持はシンジの方に振り向いて例を言うと、突然意味深な態度を取り始める。
「え?」
「古い友人さ。君だけが彼女の寝相の悪さを知っているわけじゃないぞ。碇シンジ君」
 なぜ自分の名前を知っているのか、唖然とするシンジを残して、加持は改札口の奥へと消えて行ってしまう。
「……」
「寝相って……」
 ケンスケが妄想を膨らませて顔を赤くする。
「なんやアイツ」
 トウジは怪訝な表情をする。

 NERV司令室に到着した加持は、ゲンドウと冬月に接触していた。
「いやはや、大変な仕事でしたよ。懸案の第3使徒とエヴァ5号機は、予定どおり処理しました。原因はあくまで事故。ベタニアベースでのマルドゥック計画はこれで頓挫します。すべてあなたのシナリオ通りです。で、いつものゼーレの最新資料は、先ほど……」
「拝見させてもらった。マーク6建造の確証は役に立ったよ」
 冬月は一面に張られた窓から見える景色を見ながら言った。
「結構です。これがお約束の代物です。予備として保管されていたロストナンバー。神と魂を紡ぐ道標ですね」
 加持は持参した大きなケースを開けて、ゲンドウに中身を開示する。
「ああ、人類補完の扉を開くネブカドネザルの鍵だ」
 ゲンドウは、頭のない人型の神経組織とカプセルのようなものが入った中身を見て不敵な笑みを浮かべる。
「ではこれで。しばらくは好きにさせてもらいますよ」
 加持はふらりと身を翻すと、司令室から出て行く。
「加持リョウジ首席監察官、信用に足る男かね?」
 冬月は外を眺めたままゲンドウに問いかける。